予定調和に囚われない「教養」で響いたもの

作家・元外務省主任分析官の佐藤優さん
『ベストセラーに学ぶ最強の教養』(文藝春秋)という、言うも言ったり、売らんかな精神の溢れるタイトルを持つこの本は、佐藤優という日本の官僚として「正規のルート」に乗りながら、官僚としては異端と言ってもよい持ち前の信念と考える力とで、宿命のように「通常の人生航路」を降りた男によって書かれた。

佐藤優『ベストセラーに学ぶ最強の教養』(文藝春秋)
『文藝春秋』に2013年から2020年まで連載された「ベストセラーで読む日本の近現代史」という記事がもとになっている。近現代史とある通り、古くは福沢諭吉『学問のすすめ』(明治13年/1880年刊)から、新しくは村田沙耶香『コンビニ人間』(2016年刊)まで、42編のベストセラーがジャンルを問わず俎上に乗せられている。
本書を手にとったのは『ジャパン アズ ナンバーワン』を扱う回の冒頭に、<本書(『ジャパン アズ ナンバーワン』のこと──筆者注)を日本礼賛本と受け止めてはならない><日本のノウハウに学ぶことで米国国家と米国人の生き残りについて考えた「アメリカ・ファースト」の精神で書かれている>とあるのが目に付いたからだった。世論と予定調和しない著者のその判断が、40年以上も前の自分の経験と響きあったわけだ。
42編のすべてが響き合ったとは言わない。ときに平板だと思う記述もないではなかったものの、著者の筆致には概ね異端としての人間臭い誠実さがあり、好感が持てた。ここでは、いまの私にも響いた著者ならではのコメントをいくつか紹介しよう。