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佐藤優『ベストセラーに学ぶ最強の教養』にみる「異端の精神」

今野哲男 編集者・ライター

異端の精神がもたらした「芸」の力

“知の巨人”とも評される佐藤優さん拡大“知の巨人”とも評される佐藤優さん
 例えば養老孟司の『バカの壁』(2003年刊)を<反知性主義の構造を理解するためにも『バカの壁』は必読書だ>という慧眼。その養老氏の<一神教が偏狭で、多神教もしくは神を想定しない仏教が寛容である~>という決めつけは、彼もまた「バカの壁」から逃れられていない証だと面白がる痛快さ。あるいは『蹴りたい背中』(2004年刊)の回の冒頭を<綿矢りさ氏はロシアの文豪ドストエフスキーの系譜に位置づけられる作家であると筆者は認識している>という意表を突く一言で始める元官僚とは思えぬ大胆さ。さらには、又吉栄喜『豚の報い』(1996年刊)の回で、『火花』(2015年刊)で芥川賞を受賞した、同じ姓で両親が沖縄と奄美出身の又吉直樹を登場させ、<又吉氏は、芥川龍之介や太宰治に連なる正統的な近代日本文学の表現を踏襲し、書いている>とアクロバティックに断言するなど、その独特な「芸」を感じさせる発言は枚挙に暇がない。

 最後にこぼれ話を一つ。本書には『試験にでる英単語』(初版1967年刊)の回があり、これを見た筆者は受験生時代が懐かしいあまり、用もないのに購入してしまったのです。


筆者

今野哲男

今野哲男(こんの・てつお) 編集者・ライター

1953年生まれ。月刊『翻訳の世界』編集長を経てフリーに。「光文社古典新訳文庫」に創刊以来かかわり、また演劇体験をいかして『セレクション 竹内敏晴の「からだと思想」』全4巻(藤原書店)などを編集。著書に『竹内敏晴』(言視舎評伝選)、共著に森達也との『希望の国の少数異見』(言視舎)、インタビュアーとしての仕事に、鷲田清一『教養としての「死」を考える』、吉本隆明『生涯現役』(以上、洋泉社)、木村敏『臨床哲学の知』(言視舎)、竹内敏晴『レッスンする人』(藤原書店)、『生きることのレッスン』(トランスビュー)など。現・上智大学非常勤講師。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです