2022年01月31日
同時に、政治家②のリアルな観察記となっていて心底勉強になった。②とは、広辞苑の「政治家」<①政治にたずさわる人、②(比喩的に)政治的手腕があり、かけひきのうまい人>の②だ。
会社員時代、しばしば②と出会ったが、「嫌い。以上、終わり」で済ませてきた。本書には②が複数登場、「政治的手腕」「かけひきのうまさ」を具体的に教えてくれる。
岡田さんは感染症の専門家として、同業者の間違ったコロナ対策と闘っている。権力はないがテレビに出まくり、あるべき姿を語る。が、目立った分だけネットや週刊誌に叩かれ、対策は一向に改まらない。その悔しさ、無念さが執筆動機になったろうと想像する。
主な登場人物は4人だ。登場順に田代眞人氏、岡部信彦氏、尾身茂氏、田村憲久氏。岡部、尾身両氏は20年2月に「アドバイザリーボード」入りして以来、コロナ対策の本丸にいる。岡部氏は菅政権で内閣官房参与、尾身氏は今も新型コロナウイルス感染症対策分科会長だ。田村氏は前厚労大臣。
事なかれ主義の感染研で2人は「仕事のできる浮いた存在」だったと思う。その上、田代氏は相当な変わり者(すぐに怒鳴る、メールは英語かドイツ語)で、岡田さんは時のひと。恨みやっかみその他から、昔の噂話を週刊誌に流す人がいても不思議ではない。
その田代氏、WHO(世界保健機関)パンデミック緊急会議委員なども務めたが、感染研では定年延長されず、厚労省から「一切の委員会を辞めてくれ」と言われたという。その理由は、岡部氏との対比で明らかだ。
感染研定年後、川崎市健康安全研究所長になる岡部氏。そこは感染研OBに一番人気の天下り先で、定年もなく(13年以来、今も岡部所長)、東京エリアに近い(政府の委員会に残りやすい)からだという。<ただし、そんな人事は厚労省の政策にうまくリンクした人にしか回ってこない>と岡田さん。
岡部氏を「ネゴシエーションに長けた、平時の指揮官」、田代氏を「サイエンスに立脚した、緊急時に必要な指揮官」とし、こう書く。
<サイエンスよりも政治的落としどころを重視し、調整力に長けた人物と、サイエンスを信奉し、調整には関心を持たない人物という両極端のセンター長が、感染研には同時にいたのだ>
この文章にある「サイエンス」と「政治(的)」という対語は、この本のキーワードだ。サイエンス軽視の日本のコロナ対策は、政治的な専門家が起用されたから。そう岡田さんはとらえているし、そのような人だから選ばれたこともわかっている。そういう現実との闘いの書だから、自ずと政治家②の解説書となる。
岡田さんは、彼らのことを「政治家」とは書いていない。ただしGo Toトラベルキャンペーンが始まった20年7月に、こういう記述が出てくる。
<テレビ局のある記者は「尾身さんも岡部さんも政治家よ」と、再三にわたり語っていた>
この記者は、「尾身さんが世間には出てるけど、実質的には岡部さんが落としどころを決めながら調整をつけている」から「岡部さんが上」と判定していた。
が、尾身氏は変わっていく。岡田さんは、彼が総理や大臣と共に会見するようになったのがGo Toトラベルの頃からだと指摘、政策にお墨付きを与える役割を引き受けたように見えると書く。キャンペーンについて尾身氏は「旅行自体に問題はない」と明言、同時に「ウイルスが広がったとしたら、(旅行での)飲食や飲み会や大声での会話が原因」と言った。これを岡田さんは「布石」と表現する。
事態が想定と違う方向に進んでも逃げ切る。そのために打つのが布石。政治家②はこれがうまいし、これがうまい人を政治家②という。その具体例がいくつも描かれる。
例えば、岡部氏が20年1月に出した「リスクはインフルエンザや麻疹などと比べても、とても低い」などというコメント。
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