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岡田晴恵『秘闘』で「政治家・尾身茂」の資質を理解した

矢部万紀子 コラムニスト

『秘闘──私の「コロナ戦争」全記録』(新潮社)拡大岡田晴恵『秘闘──私の「コロナ戦争」全記録』(新潮社)
 『秘闘──私の「コロナ戦争」全記録』(新潮社)は岡田晴恵さんによる日本のコロナ対策失敗記である。2019年のクリスマス・イブに「武漢で感染症発生」を知ったところから、「2021年のクリスマス・イブが来る」で終わる2年間。「徹底した入国規制」「大量のPCR検査」「大規模集約病院」……岡田さんが訴え続けていた対策が実現していれば、オミクロン株の感染拡大はこんなことになっていなかっただろうと実感する。

 同時に、政治家②のリアルな観察記となっていて心底勉強になった。②とは、広辞苑の「政治家」<①政治にたずさわる人、②(比喩的に)政治的手腕があり、かけひきのうまい人>の②だ。

 会社員時代、しばしば②と出会ったが、「嫌い。以上、終わり」で済ませてきた。本書には②が複数登場、「政治的手腕」「かけひきのうまさ」を具体的に教えてくれる。

 岡田さんは感染症の専門家として、同業者の間違ったコロナ対策と闘っている。権力はないがテレビに出まくり、あるべき姿を語る。が、目立った分だけネットや週刊誌に叩かれ、対策は一向に改まらない。その悔しさ、無念さが執筆動機になったろうと想像する。

岡田晴恵・白鷗大学教授(感染免疫学、公衆衛生学)拡大岡田晴恵・白鷗大学教授(感染免疫学、公衆衛生学)

 主な登場人物は4人だ。登場順に田代眞人氏、岡部信彦氏、尾身茂氏、田村憲久氏。岡部、尾身両氏は20年2月に「アドバイザリーボード」入りして以来、コロナ対策の本丸にいる。岡部氏は菅政権で内閣官房参与、尾身氏は今も新型コロナウイルス感染症対策分科会長だ。田村氏は前厚労大臣。

元国立感染研究所インフルエンザウイルス研究センター長拡大元国立感染研究所インフルエンザウイルス研究センター長の田代眞人氏
 田代氏は元国立感染研究所インフルエンザウイルス研究センター長。岡田さんの感染研での上司で、「不倫疑惑」の相手と週刊誌に書かれた人でもある。本書に書かれた顛末から、報道の「背景」がわかる。

 事なかれ主義の感染研で2人は「仕事のできる浮いた存在」だったと思う。その上、田代氏は相当な変わり者(すぐに怒鳴る、メールは英語かドイツ語)で、岡田さんは時のひと。恨みやっかみその他から、昔の噂話を週刊誌に流す人がいても不思議ではない。

 その田代氏、WHO(世界保健機関)パンデミック緊急会議委員なども務めたが、感染研では定年延長されず、厚労省から「一切の委員会を辞めてくれ」と言われたという。その理由は、岡部氏との対比で明らかだ。

 感染研定年後、川崎市健康安全研究所長になる岡部氏。そこは感染研OBに一番人気の天下り先で、定年もなく(13年以来、今も岡部所長)、東京エリアに近い(政府の委員会に残りやすい)からだという。<ただし、そんな人事は厚労省の政策にうまくリンクした人にしか回ってこない>と岡田さん。

 岡部氏を「ネゴシエーションに長けた、平時の指揮官」、田代氏を「サイエンスに立脚した、緊急時に必要な指揮官」とし、こう書く。

 <サイエンスよりも政治的落としどころを重視し、調整力に長けた人物と、サイエンスを信奉し、調整には関心を持たない人物という両極端のセンター長が、感染研には同時にいたのだ>

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筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長をつとめた後、退社、フリーランスに。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)。最新刊に『雅子さまの笑顔――生きづらさを超えて』(幻冬舎新書)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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