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「ストリートピアノ」を無条件に設置して良いのだろうか?

公共的な閉鎖空間での演奏は自粛すべきでは

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

 何年前のことだろう。札幌のある美術館で「本願寺展」が開かれていた。札幌に出張したついでに見学に行ったが、美術館の入り口を入った時にいやな感じを覚えた。ロビーに何十脚もの椅子が並べられていたからである。しかも演奏者側にも数十脚。

場違いなロビーコンサート

 国公立美術館・博物館の法人化が断行された頃からか、「ロビーコンサート」で見学者を増やそうとする動きが見られるようになった。同美術館もその流れに乗ったのであろう。

 けれどもこの時の企画はひどいものだった。見学を始めてしばらくすると、館内に突如ブラスバンドの大音響がひびき始めた。しかもそれは、景気づけによく使われるオッフェンバッハの「天国と地獄」だった。

 私は思わず耳を疑った。大音響それ自体が不快だったが、おまけに浄土真宗の「極楽浄土」「阿弥陀如来」に想いをはせる見学者を茶化すかのような音楽は、配慮がなさすぎると思う。展示品は美術品扱いされても、生病老死に苦しむ人には祈りの対象なのである。

 もちろん「本願寺展」でなかったとしても、この企画はひんしゅくものである。

北海道議会議事堂にストリートピアノ

 そもそも音楽は、楽しみたい人があくまで演奏会場あるいは私的な空間で楽しむべきものではないだろうか。なのに公共的な空間で、しかも美術館のロビーという閉鎖的な空間で大音響の音楽を流すのは、いかがなものか。それは、音楽に関わる最低のモラルに反するのではないか。

 そのようなことは、もうなしにしてもらいたいと思うが、前記美術館が行ったのと似た残念な出来事が、最近報じられた。北海道議会の議事堂の1階に、「誰でも自由に弾ける『ストリートピアノ』が設置された」というのである。そしてそれを弾いた奏者の感想が伝えられている(朝日新聞北海道版2022年1月21日付)。

北海道議会に設置されたピアノ=2022年1月拡大北海道議会に設置されたピアノ=2022年1月

 私はこの記事を信じがたい思いで眺めた。前記の吹奏楽と異なりここではピアノが話題の種だが、同じことである。いずれも固有の職務と無関係であり、かつ有無を言わせずに来訪者を音にさらす点で、本質は共通である。

 日本社会の悪弊を見る思いがする。いろいろな病理が私たちの社会に巣くっているが、その一つは公共的あるいは/かつ閉鎖的な場で音(騒音)を発することへの鈍感さである。

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筆者

杉田聡

杉田聡(すぎた・さとし) 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

1953年生まれ。帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)。著書に、『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)、『逃げられない性犯罪被害者——無謀な最高裁判決』(編著、青弓社)、『レイプの政治学——レイプ神話と「性=人格原則」』(明石書店)、『AV神話——アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店)、『男権主義的セクシュアリティ——ポルノ・買売春擁護論批判』(青木書店)、『天は人の下に人を造る——「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)、『カント哲学と現代——疎外・啓蒙・正義・環境・ジェンダー』(行路社)、『「3・11」後の技術と人間——技術的理性への問い』(世界思想社)、『「買い物難民」をなくせ!——消える商店街、孤立する高齢者』(中公新書ラクレ)、など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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