『鹿の王 ユナと約束の旅』安藤雅司監督に聞く(下)
世界を構成する様々な生命を等価に描く
叶精二 映像研究家、亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京工学院講師
『鹿の王 ユナと約束の旅』安藤雅司監督に聞く(上)
前回に引き続き、全国公開中のアニメーション映画『鹿の王 ユナと約束の旅』で監督を務めた安藤雅司氏のインタビューをお届けする。キャラクターデザインと作画監督を兼任する安藤監督のこだわりや、設定や場面に込められた意図、そしてタイトルである「鹿の王」の意味、そしてコロナ禍での公開への思いに至るまで、広範に伺った。
安藤雅司(あんどう・まさし)
1969年生まれ。アニメーター・作画監督・アニメーション映画監督。1990年、スタジオジブリ入社。2003年からフリーとして活躍し、2021年よりProduction I.Gに所属。主な作画監督作品に『もののけ姫』(1997年)、『千と千尋の神隠し』(2001年)、『思い出のマーニー』(2014年)、キャラクターデザインと作画監督を兼任した作品に『パプリカ』(2006年)、『ももへの手紙』(2012年)、『君の名は。』(2016年)など。
『鹿の王 ユナと約束の旅』
声の出演:堤真一/竹内涼真/杏/木村日翠/阿部敦/安原義人/櫻井トオル/藤真秀/中博史/玄田哲章/西村知道
原作:上橋菜穂子『鹿の王』(角川文庫・角川つばさ文庫、KADOKAWA刊)
監督:安藤雅司・宮地昌幸
脚本:岸本卓
キャラクターデザイン・作画監督:安藤雅司
主題歌:『One Reason』milet(ソニー・ミュージックレーベルズ)
アニメーション 制作: Production I.G
『鹿の王 ユナと約束の旅』公式サイト

『鹿の王 ユナと約束の旅』 Ⓒ2021「鹿の王」製作委員会
シルエットで見分けられるキャラクターと機能重視の衣装
──本作のシナリオや設定の制作とキャラクター作りは同時並行で行われていたのでしょうか。
安藤 ある程度はそうですね。(共同監督の)宮地(昌幸)君もアイデアを出してくれましたし、岸本(卓)さんがシナリオをまとめて下さいました。「世界観」設定の品川(宏樹)さんが大きな手がかりとなるコンセプトデザインや衣装案を出してくださって大いに助かりました。
メインキャラクターの造形はシルエットで見た時にはっきり分かるということを意識しました。ヴァンは四角くごつい、ユナは小さくて丸い、ホッサルは長髪で細身といった具合ですね。
──ヴァンはトマの村に滞在して以降、着物のような上着をもらって着ています。村の男たちは度々上着の片袖を外していますが、ヴァンは特に肩袖を外しているシーンが多いと思いました。あえて着崩しているということでしょうか。
安藤 ヴァンが着ているトマの村の衣装はチベットなどの民族衣装をベースにデザインしています。生活に根ざした衣装ということで、整然とせずに左右非対称にしたいと思いました。

『鹿の王 ユナと約束の旅』 Ⓒ2021「鹿の王」製作委員会
──日本でも武将が弓を射る際や太刀を振り回す際に、片袖を外して袴と背の間にしまう「肩脱ぎ」という着方がありました。
安藤 懐に物を入れられるとか、機能性を追求した結果そうなっているということだと思います。戦士的なイメージで、肩当てをしてはどうかという案もありましたが、どこか素朴さを残したかったんですね。