世界を構成する様々な生命を等価に描く
2022年02月08日
前回に引き続き、全国公開中のアニメーション映画『鹿の王 ユナと約束の旅』で監督を務めた安藤雅司氏のインタビューをお届けする。キャラクターデザインと作画監督を兼任する安藤監督のこだわりや、設定や場面に込められた意図、そしてタイトルである「鹿の王」の意味、そしてコロナ禍での公開への思いに至るまで、広範に伺った。
安藤雅司(あんどう・まさし)
1969年生まれ。アニメーター・作画監督・アニメーション映画監督。1990年、スタジオジブリ入社。2003年からフリーとして活躍し、2021年よりProduction I.Gに所属。主な作画監督作品に『もののけ姫』(1997年)、『千と千尋の神隠し』(2001年)、『思い出のマーニー』(2014年)、キャラクターデザインと作画監督を兼任した作品に『パプリカ』(2006年)、『ももへの手紙』(2012年)、『君の名は。』(2016年)など。
『鹿の王 ユナと約束の旅』
声の出演:堤真一/竹内涼真/杏/木村日翠/阿部敦/安原義人/櫻井トオル/藤真秀/中博史/玄田哲章/西村知道
原作:上橋菜穂子『鹿の王』(角川文庫・角川つばさ文庫、KADOKAWA刊)
監督:安藤雅司・宮地昌幸
脚本:岸本卓
キャラクターデザイン・作画監督:安藤雅司
主題歌:『One Reason』milet(ソニー・ミュージックレーベルズ)
アニメーション 制作: Production I.G
──本作のシナリオや設定の制作とキャラクター作りは同時並行で行われていたのでしょうか。
安藤 ある程度はそうですね。(共同監督の)宮地(昌幸)君もアイデアを出してくれましたし、岸本(卓)さんがシナリオをまとめて下さいました。「世界観」設定の品川(宏樹)さんが大きな手がかりとなるコンセプトデザインや衣装案を出してくださって大いに助かりました。
メインキャラクターの造形はシルエットで見た時にはっきり分かるということを意識しました。ヴァンは四角くごつい、ユナは小さくて丸い、ホッサルは長髪で細身といった具合ですね。
──ヴァンはトマの村に滞在して以降、着物のような上着をもらって着ています。村の男たちは度々上着の片袖を外していますが、ヴァンは特に肩袖を外しているシーンが多いと思いました。あえて着崩しているということでしょうか。
安藤 ヴァンが着ているトマの村の衣装はチベットなどの民族衣装をベースにデザインしています。生活に根ざした衣装ということで、整然とせずに左右非対称にしたいと思いました。
──日本でも武将が弓を射る際や太刀を振り回す際に、片袖を外して袴と背の間にしまう「肩脱ぎ」という着方がありました。
安藤 懐に物を入れられるとか、機能性を追求した結果そうなっているということだと思います。戦士的なイメージで、肩当てをしてはどうかという案もありましたが、どこか素朴さを残したかったんですね。
──この作品には東乎瑠(ツオル)とアカファという異なる民族が出てくるわけですが、それぞれの特徴が描き分けられていると思いました。
安藤 民族の違いをどう描き分けるかは最初に直面した難題でした。結果的にはそれぞれの文化、衣食住、宗教などの違いに頼る形をとりました。デザインで顔の造作や肌の色で民族の違いを描いてしまうと、現実に絡んだ変な先入観につながってしまう可能性もあります。そうではなく、あくまでキャラクター達の性格や立ち位置を表すことを大前提として、衣装や色使いで文化や生活の違いを民族の差として表現したいと思いました。その結果、東乎瑠(ツオル)人は、成人は全て額に“眼”の刺青を入れていることにしました。
──民族ごとの色の識別が大変分かりやすかったです。アカファは赤い衣装が多く、国章も赤い四角模様でした。一方、東乎瑠(ツオル)は青い衣装で国章も青い眼。「玉眼来訪(ぎょくがんらいほう)」という行事のために皇帝が移動する手段が青い眼の描かれた大気球で、道標に各地で気球を上げているというアイデアも秀逸でした。
安藤 「ギョクガンライホウ」と音で聴いても分かりにくいんです。それが「眼が描かれた気球がやって来る」というイメージだと端的で分かりやすい。これも品川さんのアイデアが元になっていたと思います。山頂にある東乎瑠(ツオル)の城だけは青く、山並みには旧アカファの街が広がっていて、そこに点々と気球が上がっている。気球の進路が、そのまま東乎瑠(ツオル)皇帝がアカファの民を支配していくという構図になっているわけです。
──ヴァン、ホッサル、そして「跡追い(追跡者)」のサエは3人で旅をするわけですが、その途上の美術が美しいと思いました。特に赤土の地層に白い岩が突き出た風景が印象に残りました。あの白い岩はアカファ特有の岩塩なのでしょうか。
安藤 いえ、特にそう設定したわけではありません。あの旅の風景は人体の内と外を行くというイメージで作り上げています。少し分かりづらいですが……。あの赤土の中に浮かぶ岩々の景色は、血液の中に浮く血球や血小板をイメージしたものです。ただ巨石は、王国内のあらゆる場面に存在するものとしました。岩石柱が点在し、それが国土の地形的な特徴となっていて、それを突き崩しつつ大気球を導く気球が浮上していくことで、「玉眼来訪」の政治的圧力を表したいと思ったのです。その岩石柱を自然に生み出す地形として、巨石を点在させています。
──タイトルの「鹿の王」には、力を持つ者の責任や自己犠牲など様々な深い意味が含まれていると思います。その由来についてヴァンと長老が語るシーンも印象的でした。
安藤 「鹿の王」というタイトルが
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