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三宅弘城『命、ギガ長スW(ダブル)』取材会レポート

シリアスな問題をポップに描く松尾スズキ(作・演出)による二人芝居

大原薫 演劇ライター

 三宅弘城が東京成人演劇部vol.2『命、ギガ長スW(ダブル)』に出演する。

 「大人計画」を主宰する松尾スズキが、演劇を始めた原点に立ち返ろうと自ら企画・プロデュースして立ち上げた「東京成人演劇部」。その第1回公演が『命、ギガ長ス』(2019年)。80代で認知症気味の母親とアルコール依存症の50代の息子、その親子のドキュメンタリーを撮るために彼らに密着する映像作家志望の女子大生と彼女を指導する大学教授を作・演出松尾スズキと安藤玉恵が二人芝居で演じた。

 今回は『命、ギガ長スW(ダブル)』とタイトルを変え、宮藤官九郎×安藤玉恵、三宅弘城×ともさかりえという二組のダブルキャストによって上演される。

 三宅弘城はナイロン100℃の主要メンバーとして活躍し、舞台のみならず映画、ドラマにも幅広く出演する。パンクコントバンド「グループ魂」では“石鹸”の名前でドラムを担当。松尾スズキ作品には『悪霊』(2013年)以来の出演となる。三宅に本作出演に寄せる思いを聞いた。

「えっ、俺……?」と思いました(笑)

三宅弘城=宮川舞子 撮影拡大三宅弘城=宮川舞子 撮影

――『命、ギガ長スW(ダブル)』の出演の話が決まったときはどう感じられましたか。

 『悪霊』のときもそうだったんですけど、「えっ、俺……?」と思いました(笑)。初演が松尾さん、再演で宮藤さんが演じる役で僕が演じるというのは、流れが全然違うというか。でも、違うからこそ面白くなるのかなと思ったりしますね。チラシに載っている松尾さんの言葉が「初演組の安藤玉恵、松尾組久しぶりの宮藤官九郎、待望のともさかりえ、屈強の三宅弘城」とあって。「屈強」って芝居に別に関係ないじゃないですか(笑)。

――なぜ「屈強」になったのでしょうね(笑)。

 松尾さんも屈強しか思いつかなかったのかなあ。あんまり芝居で屈強になることはないと思うけれど、そういう表現が面白いなと思いつつ、出演が決まったことは嬉しかったですね。

――初演の松尾スズキさん、安藤玉恵さんが演じた公演はご覧になりましたか。

 観ました。手作り感いっぱいの公演でしたね。松尾さんが演出する作品も規模が大きくなっているので、もう1回ザ・スズナリくらいのサイズでしか伝わらない笑いをやりたかったのかなと思いました。あと、最近よく思いますが、松尾さんの作品にやさしさを感じるんですよ。

――松尾作品のやさしさはどういうところで感じる?

 『フリムンシスターズ』のときもそうだったけど、全体的に漂う雰囲気とか。『命、ギガ長ス』は最後に年老いた母親がギターを弾いて歌うところとか、もう泣けてくるんです。面白かったのはもちろんのこと、ジンワリ(感動)したという印象があります。

三宅弘城=宮川舞子 撮影拡大三宅弘城=宮川舞子 撮影

――そのときはまさかご自分がやられるとは思わなかった?

 思わないですよ、まさかです。あと、ともさか(りえ)さんとは共演歴が長いので心強いですね。

――年老いた母親と女子学生をともさかさんが演じるというのは驚きがありました。

 僕も驚きました。でも、ともさかさんはいい意味で貪欲というか、いろんな役柄を演じたいタイプに見受けられるので、ご本人自身新しいことができるということを楽しみにしてらっしゃるのではないかと思います。

――三宅さんはともさかさんとの共演経験がありますね。

 そうですね、これまで舞台では3本ご一緒してそこで培った信頼関係があります。ともさかさんは最初の頃よりも大きな懐で受け止めてくれるようになった気がして。『あさが来た』のスピンオフ(『破れ鍋にとじ蓋』)でもともさかさんが出演したんですが、プロデューサーが(二人が共演した)『鎌塚氏、放り投げる』のDVDを観ていて「二人のコンビネーションがいかに良いかがわかりました。監督にも『このDVDを観るように』と勧めたんです」と言ってくれたんですよ。お客様にも二人のペアには安心感があるかなと思うので、第一関門はクリアしている気がします。

小劇場のスピリットは忘れてはいけない

三宅弘城=宮川舞子 撮影拡大三宅弘城=宮川舞子 撮影

――作・演出が松尾スズキさん、出演が宮藤さん×安藤さん、三宅さん×ともさかさんで、小劇場のザ・スズナリで上演するのだということにも驚きがありました。演劇人としては思い入れがある劇場なのでしょうか。

 僕は初舞台がザ・スズナリなので、原点に返る気持ちです。最近は大きな劇場や出演したり、映像もやらせてもらったりしていますが、自分の原点は小劇場。松尾さんも「自分は小劇場の人間だ」と言っていましたが、小劇場のスピリットを忘れたくないなと思いますね。それに、作品的にもスズナリがいいんじゃないですか。

――ザ・スズナリが似合う作品なんですね。

 そうだと思いますよ。規模もそうだけれど、スズナリはいい意味で泥臭くて、独特のイメージがある。これはもう、スズナリでしか出せない空気があるんですよね。

――お客様は「こんなに近くで観られるんだ」と思われるかもしれません。

 お客様との距離も近いから、僕らも逆に緊張するかもしれないですよね。客席が近いと、お客様の顔が見えますから。「何か難しい顔をしているなあ」「寝てるな」とか(笑)。僕は案外そういうのを見てしまう方なんです。あとは、開演前にセットの隙間から客席を見るのが好き。「あ、誰々さんが来てる」とか見つけたりして(笑)。

三宅弘城=宮川舞子 撮影拡大三宅弘城=宮川舞子 撮影

――『悪霊』以来となる松尾作品への出演ですが、どんなご期待がありますか。

 松尾さんは稽古場で内容を足していったり、思いついたことを取り入れて変えていったりするので、今回はどういうふうに変わっていくかが楽しみですね。ともさかさんという初めて一緒になる女優さんを松尾さんがどう演出するかというのも興味深いです。自分が演出をしてもらうのと同時に、ともさかさんにどう演出されるかも見てみたいですね。

――以前、松尾さんが演出される稽古場に伺ったときは、俳優に「作り過ぎないで」「もっとフラットに」と指示されていたのが印象的でした。

 「作り過ぎないで」というのは松尾さんだけでなく、宮藤さんや岩松(了)さん、ケラ(リーノ・サンドロヴィッチ)さんにも共通しているように思います。でも、そうは言っても(役者としては)松尾さんが一番作っているじゃないかなぁとも思いますけど(笑)。でも、松尾さんが演じたら説得力があるから、そういう作り方だったらいいんでしょうね。『悪霊』のときは松尾さんに「手足が長くならないかなあ」とか「頭が良さそうに見えないんだよな」と言われて、「手足が短いのか…」と思ってクヨクヨしていたんですが(笑)、今回はそう言われることには慣れたのでもう大丈夫です! ただ、息子の役は絵が上手だという設定なんですが、僕は絵がまったく駄目で、そういうふうに見えるんだろうかというのは気になっています。まあ、「絵が上手い人だ」と言い切ればそう見えるのが演劇のいいところだから(笑)、絵の上手な人のつもりで演じようと思います。

三宅弘城=宮川舞子 撮影拡大三宅弘城=宮川舞子 撮影

――『命、ギガ長ス』の書籍版では、安藤さんが「松尾さんが考える演劇」「『松尾さんにとって演劇とはこういうものだ』というものが読み取れる戯曲」とコメントされていました。松尾さんとご一緒された経験を振り返って、松尾さんが考える演劇とはどんなものだと思いますか?

 どうでしょうね……、松尾さんは基本的に面白いことがやりたいんじゃないかな。

――なるほど。

 たとえ悲しい内容でも、それが行き過ぎると喜劇になってしまったり。松尾さんがやりたいのは喜劇なんだと思います。

――そうですね。『命、ギガ長スW(ダブル)』でも8050問題(80代の親が50代の引きこもる子供を支える状況になっているという社会的問題)を鋭く描くのかと思いきや、そうではない。その状況の中にある人間のおかしさなどが浮かび上がってきます。

 そう、人間の駄目さやしたたかさ、間抜けさとかね。元はシリアスな問題でも、とてもポップになっている。それでも最後には引き込まれて、感動するというのは松尾さんならではだと思います。

三宅弘城=宮川舞子 撮影拡大三宅弘城=宮川舞子 撮影

――演じる側としては、そういう松尾さんの作品に出演されるのはいかがですか。

 構造的なことはあまり考えないで、松尾さんにお任せするというか。こちらは客観的にならずに、そこで生きる人間を一生懸命演じようかなと思っています。

――今回はダブルキャストが2組とのことで、宮藤官九郎さん×安藤玉恵さんのチームは意識されますか?

 稽古は別々にやると思いますが、たまたま向こうのチームの稽古が長引いていて、稽古を見ることもあるかもしれない。わざわざ早く行って向こうのチームを見てやろうなんて気持ちは全然ないです。この間、宮藤くんも「だって、(稽古を見られるのは)嫌じゃない!?」と言っていたので(笑)。

――稽古を見られるのは嫌ですか。

 キャラが全然違うとはいえ、同じことをやっているわけですから。恥ずかしいというのはありますね。

――コロナ禍が続く中での公演となりますが、お客様にどんな思いが届いたらいいと思いますか?

 演劇は、決して不要不急のものではないと思っています。演じている僕たちもお客様に対して「ありがとう」「あなたたちがいるから、僕たちも芝居できるんです」と思いますし、お客様から「元気が出ました」「生きていく勇気をもらいました」という手紙をもらうと、「僕たちも少しは必要とされているのかな」と思います。『命、ギガ長スW(ダブル)』を観て、お客様があたたかい気持ちになって帰ってもらえたらいいなと思いますね。

◆公演情報◆
東京成人演劇部vol.2『命、ギガ長スW(ダブル)』
東京:2022年3月4日(金)~4月3日(日) ザ・スズナリ
大阪:2022年4月7日(木)~4月11日(月) 近鉄アート館
北九州:2022年4月15日(金)~4月17日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
松本:2022年4月23日(土)~4月24日(日) まつもと市民芸術館 実験劇場
公式ホームページ

[スタッフ]
作・演出:松尾スズキ
[出演]
ギガ組…宮藤官九郎×安藤玉恵
長ス組…三宅弘城×ともさかりえ

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筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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