米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター
ブロードウェイでミュージカルを見たのをきっかけに演劇に開眼。国内外の舞台を中心に、音楽、映画などの記事を執筆している。ブロードウェイの観劇歴は25年以上にわたり、〝心の師〟であるアメリカの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて現地でも取材をしている。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
どのメソッドでもなく城田流。経験して感じたことを継承したい
2007年にブロードウェイで幕を開け、日本でも2010年に上演されたミュージカル『カーテンズ』が、城田優の演出・主演で新たに蘇る。1959年のアメリカ・ボストンの老舗の劇場を舞台に、主演女優が殺されるというバックステージもののコメディで、『シカゴ』『キャバレー』などでおなじみの有名音楽家コンビ、ジョン・カンダー&フレッド・エッブのけれん味のある楽曲も特徴だ。最近では俳優だけではなく、演出のほか、現在放送中の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』のナレーションでも活躍する城田。公演に先がけ、大阪市内で開いた取材会では多くの報道陣が詰めかけた(2021年12月に開催)。
――作品の魅力についてお聞かせください。
『カーテンズ』になじみがある人は少ないかと思います。僕自身もオファーをいただいて、初めて知ったぐらい。ミュージカルを題材にしている作品で劇中劇になっています。ミュージカルを上演中の劇場で殺人事件が起きて、捜査が始まります。捜査に来た、私演じる警部補のチョフィは非常にミュージカルおたくであり、ミュージカルを鋭い観点からとらえている人。本来、捜査だけに集中しなきゃいけないのに、創作過程に口を出す。そうするとミュージカルの質が上がっていくというコメディタッチの作品です。あまり僕は見たことのないストーリーで面白いなと思ったのが、最初の印象ですね。
――主人公のチョフィをどう演じたいと思いますか。
チョフィは警部補でありながらミュージカルおたく。殺人事件という主軸がある場合、物語はシリアスに進みがちですが、それと同じトーンで「ちなみにさっきのナンバーは?」と、横やりみたいにミュージカルおたくネタが入ってきてペースが崩される。それがお客さまにも刺さっていくのではないかと。チョフィが捜査とミュージカルの創作を真面目にすればするほど、滑稽に見えて面白くなっていく。役者としては受けを狙いにいくことは一切せず、すべて真剣に一語一句、真面目にしたい。たとえ面白いフレーズだったとしても、警部補としてシンプルに捜査をしながらミュージカルの意見も付け加える。その辺は演技でも詰めていきたいですね。
――今回は演出も手掛けます。
稽古はまだ始まっていませんし、打ち合わせがようやく終わったところ。セットや照明、衣装の打ち合わせはこれからです。演出家としては、僕はまだそんなにたくさんの作品をやらせていただいているわけではないので、新参者といいますか若輩者なんですが、自分なりに一生懸命、この物語を客席のお客さまが信じられるようなものにしたいと思っています。華やかで派手なダンスナンバーの数々をお見せするだけではなくて、あくまでこの作品のドラマをしっかりと届けたい。お芝居にこだわって演出したいです。歌とダンスが乖離、分離せず、すべてがお芝居にちゃんとつながっていく。歌、芝居、ダンスという3つの点を線にしていきたいと思います。
――キャスティングについてこだわった所は?
ミュージカルや舞台をたくさんやってきた方だけを選んだわけではなく、チャレンジの一環として、ミュージカルに挑戦したいと出演を熱望しているキャストにも参加してもらいました。櫻坂46の菅井友香さんと三浦翔平さんです。このお二方はメインキャストと同時にミュージカル初出演です。新たな風や可能性をミュージカルに入れたいですね。瀬奈じゅんさんをはじめ、ベテランの方々が脇を固めてくれますので、私、城田は安心して演出をできるのではないかと思います。
彼らが演じる物語のキャラクターはパレットのようにカラフルな存在です。そこを色濃く表現するというよりは、マッチさせてトーンを合わせたい。キャラクターたちが濃く出すぎると、物語がよく分からなくなってしまうので、皆さんと話をしながら作っていきたいです。
――城田さんのアイデアが可能なかぎり脚本に盛り込まれているそうですが、具体的には?
僕が素晴らしいアイデアを吹き込んだというよりは、もともと、どの海外作品にもいえることですが、ここは日本であり、作品は海外のものです。作品にはドメスティックで、国内でしか受けない、理解してもらないという冗談の数々や地名などが入っている。ストーリーをしっかりと追えるように、僕はなるべく複雑なジョークや日本人には理解しにくい言葉の数々を排除しました。そしてそれを本国の許可を得た上で、翻訳・訳詞の方と検証しながらシンプルに分かりやすくまとめていきました。
――2019年にミュージカル『ファントム』の演出をされた時は、劇場の案内係の衣装をはじめ、凝りに凝った演出が印象に残りました。今回は?
コロナ禍で、客席に降りることを許諾してもらえるのにものすごい時間と労力がかかるんです。『ファントム』では、客席に降りて、客席から登場ということもバンバンできていましたし、劇場の案内係の衣装を作ったり、ロビーに美術作品を飾ったりして舞台の世界観を作り上げました。でもこのご時世、どこまでできるかは分からないです。正直、自分がやりたいことの多くは難しいと思っています。あくまで舞台の上でできることに集中しなくてはいけないかと。
本来演出するなら、僕はロビーから作っていきたいというタイプです。海外に足を運ぶと、ロビーから劇場がその作品の雰囲気に染まっていることがある。テーマパークに行ってアトラクションに乗る時は、乗るまでの時間が楽しかったりしますよね?そういった空間を作ることはこれからもやりたいんですが、今回は難しいかなと。
――舞台上のセットは凝るのですよね。
もちろん、凝りますし、僕は照明に関してもタイミングから口を出して、ああだこうだと言いたいタイプ(笑)。舞台上、つまりお客さまの目に見えるものはすべて僕がディレクションしていると思っていただければ。
――演技についてですが、演出も兼ねるので『ファントム』の時は、自分の演技は動画で撮って、キャストやスタッフに意見を聞いたり、ダメ出しをしてもらったりしようかとおっしゃっていました。
『ファントム』は加藤和樹君とダブルキャストだったので、彼にどう見えた?と常に聞いていました。もちろん、客観的に自分を見て、映像でチェックして自分なりに修正することはできたんですが、現場でどう見えているかは、同じ役をやって信頼している加藤君や演出助手に託し、意見はもらっていたんです。今回は、ダブルキャストではなくシングルキャストなので、頭を悩ませているところです。相方はいませんし、稽古も僕が演出なのか役者なのか、選ばなきゃいけない。そこが一番、難しいところだなと思っています。
――城田さんの演出家としての強みは何でしょうか。
俳優をやっていることですかね。やっていたでもやっていないでもない。今も現在、俳優です。デメリットもたくさんあるんですが、メリットも同じぐらいある。僕の強みは少なくとも役者さんの気持ちを考えられることと思っています。
――そこから生まれてくる視点はありますか。
大前提に“日本語”という言語でミュージカルを上演することは本当に難易度が高いです。が、僕の肌感覚で申しますと、日本のミュージカルに足りないのは、お芝居の説得力だと思います。どうしてもショーアップされたところばかり目立ってしまって、お芝居の部分が薄れてしまう。ブロードウェイをはじめ、ほかの国で観劇していると、言葉の壁があったとしても、歌とダンスと芝居がすべてつながっている作品だと思えるんです。日本では、歌った瞬間に人格が変わったように見えたり、踊り始めた瞬間に役の感情がどこかへ飛んでいってしまったりと、作品に一体感がないような印象を受けることもしばしばあります。作品のテイストにもよるので、一概には言えませんが。誰が悪いということはなく、そこに注視しているプロデューサー、演出家や俳優がまだ少ないんではないかと。
ミュージカルを作っていると、歌や踊りの稽古に時間をかけても、お芝居に時間をかけるのは少ないと思うんですよね。僕は何よりもそこに時間をかけたいので、僕の演出を受けた俳優たちは、「城田はすごく芝居に時間をかけるし、うるさい」と言ってくれているようです。僕にとっては褒め言葉ですね。そこがほかの演出家さんとは違うところかなと。
――その状況を変えていきたいと?
僕はすべての作品をチェックしているわけではないですが、見方も含めて、僕の意見は少数派でマイノリティーだと思います。自分がそんなに良くなかったと思っても、ほとんどの観客がスタンディングオベーションをしていて、「あれっ?そんなに良かったのか」と思う時もありますし、僕だけが立ち上がっても、誰も立って拍手していない時がある。僕の基準は、ストーリーがしっかりと見えてつながってドラマが終わっているかどうか。10代から色んな演出家に受けた指導や経験をもとに構築されているので、感謝を忘れずに、自分なりにかみ砕いて、城田流でどのメソッドでもなく、経験して感じてきたことを継承していきたいですね。
――朝ドラではナレーションをされていてすごく好評ですね。何かいい影響はありましたか。
現時点では、大きなドラマやナレーションの話はきていないです(笑)。でも、たくさんの方に喜んでいただいて、友人や知人にも「すごくいいね」と言ってもらえて、ありがたいです。最初は不安な要素も多かったんですが、楽しんでもらえているようで一安心です。
――大阪公演は2022年の3月に開幕します。
お客さまがフィクションの世界にスッと入っていけて、カーテンが閉まったタイミングで何か心に潤いや旅をした気分を味わってもらえたら。色んな辛いことが多々ある中、心躍るダンスや劇中劇などで笑って豊かな時間を過ごしてほしいです。演出・主演としてこのカンパニーを引っ張っていき、まずは東京公演を完走して、脂が乗った状態で大阪に来られるよう努めます!
◆公演情報◆
ミュージカル『カーテンズ』
東京:2022年2月26日(土)〜3月13日(日) 東京国際フォーラム ホールC
大阪:2022年3月18日(金)〜3月22日(火) 新歌舞伎座
愛知:2022年3月26日(土)〜3月27日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
公式ホームページ
[スタッフ]
脚本:ルパート·ホームズ
作曲:ジョン·カンダ―
作詞:フレッド·エッブ
原作:ピーター·ストーン
追加歌詞:ジョン·カンダー&ルパート・ホームズ
演出:城田 優
[出演]
城田優、菅井友香(櫻坂46)、三浦翔平、原田薫、岸祐二、中嶋紗希、宮川浩、瀬奈じゅんほか