2022年02月16日
2月某日、とあるフルーツパーラーに入った。種類多すぎのパフェメニュー。悩むと気づけば、聞き覚えあるインスツルメントのBGM。サビになった。
♪なーみだーの河もー、海へーと帰るー。誰のー心もー、雨のちー、晴れるやー
よみがえる歌詞。ゆず「雨のち晴レルヤ」、朝ドラ「ごちそうさん」(2013年度後半)の主題歌だった。
放送初回に「雨のちー、晴れるやー」を聞いて、私の中の渥美清がつぶやいた。「それを言っちゃあ、おしまいよ」。だって、おいちゃん、朝ドラって、そういうもの。最短でまとめるなら、人生、雨も降るけど最後は晴れ。わかって見ているのに、歌われてしまうとなー。という記憶。
現在放送中の「カムカムエヴリバディ」の主題歌「アルデバラン」(AI)は、全く違う。こう始まる。
♪君とわたーしは、仲ー良くなれるかな、この世界が、終わるそのまーえに
「世界=終わる」という認識に立っている。「きっといつか儚く枯れる花」「不穏な未来に手を叩いて」と続く。「花=枯れる」「未来=不穏」という認識は、「雨のち晴れる」の気楽さとは真逆だ。そういう歌に当初は面食らったが、回を重ねるうち、これこそが「カムカムエヴリバディ」だと思うようになった。
というわけで「カムカムエヴリバディ」。控えめに言って、かなりの佳作だ。朝ドラらしさを踏まえつつ、今の時代の価値観を提示している。朝ドラの新たな扉が開きつつある、とさえ思っている。
朝ドラとは「何者かになりたい女子」を描くもの。そう定義している。「何者=職業」とは限らない。が、そこへ向かって歩く姿が骨格で、そこに自分が重なれば重なるほど入り込める。「安子、るい、ひなたと、三世代の女性たちが紡いでいく、100年のファミリーストーリー」(番組ホームページ)という「カムカムエヴリバディ」では、トップバッターの安子(上白石萌音)からその骨格がぐいぐい描かれていた。
1925(大正14年)生まれの安子は、小さな和菓子屋の娘。3話で繊維会社の御曹司と出会い、“身分違い”の恋が始まり、15話で結婚、16話で出産、20話で御曹司は戦死する。スタートから1ヶ月で伴侶を失うという朝ドラ史上最速(たぶん)の展開。
そこから安子はどんどん変わる。娘を1人で育てることになり、家業の和菓子作りで生計を立てる。食料事情から最初は芋飴、そこから小豆を煮ておはぎを作る。おいしいと評判になり、卸売りもする。寝る間も惜しんで作る。恋する少女が瞬く間に働く母に。心を持っていかれた。
安子、るい(深津絵里)、そして2月10日放送回で高校3年生になったひなた(川栄李奈)。健気な安子から複雑なるいになり、ひなたは今どきの女の子。そんなキャラ変は、ドラマに新鮮さを与える。が、それだけではない。ヒロインが変われば、違う価値観を打ち出せる。これが藤本さんの狙いだったと思う。
まずは安子→るいで、
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