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Qアノンに魅了される私の 「闇」──「12の過激主義組織潜入ルポ」を読む

佐藤美奈子 編集者・批評家

恐怖心や不満が募る日常のなかで

 容疑者と面識のない人々が多数犠牲になる、あるいはいわゆる「拡大自殺」に巻き込まれたと思われる刺傷・殺傷事件が続いている。昨年(2021年)8月の私鉄・小田急線車内での10人切り付け事件、10月の私鉄・京王線車内での18人刺傷・放火事件、11月の九州新幹線車内放火事件等……。12月には大阪の心療内科クリニックで放火事件が起き、年が明けてからは東大前で受験生ら3人への切り付け事件、埼玉県ふじみ野市で医師射殺事件が発生した。

 小田急線の事件の容疑者は「電車での大量殺人を前から考えていた」と述べたとされ、京王線の事件は小田急線の事件を、九州新幹線の事件は京王線の事件をそれぞれの容疑者が参考にしていたと報じられ、事件が事件を呼ぶ連鎖の可能性も想像される。

京王線での刺傷・放火事件で、車内を走って逃げる乗客たち=ツイッターの動画から(画像の一部を加工)拡大京王線での刺傷・放火事件で、車内を走って逃げる乗客たち=ツイッターの動画から(画像の一部を加工)

 一方で、受け止める側こそ冷静にならねば、という思いは働く。実際、日本の凶悪犯罪の件数は5年連続で減っているというデータ がある(警察庁「犯罪統計資料2021年1~12月分〈確定値〉」)。重要犯罪(殺人、強盗、放火など)の認知件数はこの5年で約2000件減少しており、うち殺人事件数は横ばいか減少傾向で推移している(2017年920件、2018年915件、2019年950件、2020年929件、2021年874件)。しかもテロを思わせる無差別殺傷事件は、何も今に始まったわけではなく、古くから国内外を問わず発生しているのだから、煽られる不安に溺れてはいけない、と自らを戒める。

 目先のニュースに踊らされず、客観的事実や歴史を踏まえることが大事なのは言うまでもない。それでも、痛ましいとしか形容できない類似犯罪を続けて耳にすれば恐怖心が湧き、衝撃の大きい各事件に何かしらの因果関係を見出したくなるのは事実だ。

 加えて、収束が見えないこのコロナ禍である。日常のなかで増える制約や我慢すべき事柄に対して必要以上に不満が募り、鬱屈に向かう気持ちに拍車がかかる。こうした不満や鬱屈に形を与えてくれるストーリーがあれば乗りたくなる思いが、自分にもある。

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筆者

佐藤美奈子

佐藤美奈子(さとう・みなこ) 編集者・批評家

1972年生まれ。書評紙「図書新聞」で記者・編集者をつとめた後、2008年よりフリーランスに。現在、講談社などで書籍編集・ライターの仕事をし、光文社古典新訳文庫で編集スタッフをつとめる。自身の読書の上では吉田一穂、田村隆一といった詩人の存在が大きい。「死と死者の文学」を統一テーマに「古井由吉論」「いとうせいこう・古川日出男論」(各100枚)を『エディターシップ』2、3号に発表。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです