今、パゾリーニを見る意味~『テオレマ』『王女メディア』の公開にあたって
古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)
1922年3月5日に生まれたイタリアの映画監督、ピエル・パオロ・パゾリーニの生誕100年を記念して、代表作の『テオレマ』(1968、4Kスキャン版)と『王女メディア』(1969、2K修復版)が3月4日から全国各地で上映される。この機会にパゾリーニという映画監督の特異性と今見る意味を考えてみたい。

『テオレマ 4Kスキャン版』 © 1985 - Mondo TV S.p.A. 3月4日(金)より、東京のヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開 配給:ザジフィルムズ
『テオレマ』『王女メディア』公式サイト
イタリアはアメリカやフランスや日本と並ぶ「映画大国」であった、と書くと今では驚かれるかもしれない。サイレント期からディーヴァ(女神)映画や史劇はハリウッド映画の形成に大きな役割を果たし、トーキーになってからは極上の喜劇を作り出し、戦後はネオレアリズモやマカロニ・ウエスタンやイタリアン・ホラーなどで一世を風靡した。1970年前後の日本では、毎年60本前後のイタリア映画が公開されて本数でフランス映画を上回っていた。
監督としても、ロベルト・ロッセリーニ、ヴィットリオ・デ・シーカ、ルキノ・ヴィスコンティ、フェデリコ・フェリーニ、ミケランジェロ・アントニオーニ、ヴィットリオ&パオロ・タヴィアーニ、エルマンノ・オルミ、マルコ・ベロッキオ、ベルナルド・ベルトルッチといった巨匠たちが綺羅星のごとくに並ぶ。しかし、ピエル・パオロ・パゾリーニ監督は、彼らとは違っていた。