2022年03月04日
エンドロールにクラウドファンディング参加者の名前が並ぶ。映画制作においてもこうして資金を調達するというスタイルはずいぶんと定着してきたように思うが、本作がほかのクラウドファンディングをしている映画と一線を画するのは、セクシャル・ハラスメントとカミングアウトをドラマ化した「日本初」の試みだったというところだろう。
『ある職場』が旧タイトルの『些細なこだわり』として2019年にクラウドファンディングを募集した際のWEBサイト(「いま求められているジェンダー平等ってなんだろう? 舩橋淳監督最新作「些細なこだわり」の完成を支援してください!」MotionGallery) には、こう明記されている。
<「みんな同じじゃなきゃダメ」ではなく、「みんな違ってて平等」の社会ってどんなだろう? この問題を身近に感じる事件=セクハラとカミングアウトをドラマ化した映画を作りました。日本映画では、初の試みです!>
この時、262人からの賛同者を得て200万円という目標額を達成し、この支援金はポストプロダクションと宣伝配給費用に充てられた。
本作品は実在したセクシャル・ハラスメント事件に基づき、その後日談として創作されたフィクションである。メガホンを握ったのは、福島第一原発事故により、町全体で避難を強いられた福島県双葉町の人々を追ったドキュメンタリー映画『フタバから遠く離れて』(2012年)やその続編でもある『フタバから遠く離れて 第二部』(2014年)が、国際的にも高い評価を得ている舩橋淳。『ビッグリバー』(2006年)、『桜並木の満開の下に』(2013年)、『ポルトの恋人たち 時の記憶』(2018年)といったフィクションも数多く手がける、日本映画界では数少ない本格的な二刀流の映画作家でもある。
映画としてその真実を伝えたくても、被害者を守るような社会的システムが構築されているとは言い難い日本では、被害者を世間のさらし者にしてしまうことになる。それだけに声もあげにくい。ドキュメンタリー作品として成立できるような土壌が、日本にはそもそもなかったのだ。
大手ホテルチェーン勤務の大庭早紀(平井早紀)が上司から受けたセクシャル・ハラスメント。早紀は被害者であるにもかかわらずSNSで身元をばらされ言われなき誹謗中傷を浴びていた。ホテル従業員の士気は落ち、その暗い雰囲気を打破しようと、早紀とスタッフたちは社員用保養所へと2泊3日の小旅行に出かける。しかし、楽しいはずの旅行は、仲間同士の疑心暗鬼から多くの対立を生み……。
セクハラ被害者の早紀、ゲイカップルだとこの小旅行でカミングアウトした拓と修、職場の内外の女性に手を出している野田、正義感あふれる先輩女性の木下、早紀に好意を寄せる御所と小林、特別参加したフリーライターの小津、今回の問題をなんとかとりなそうとする女性上司の牛原……劇中、被害者のみならず同僚、上司に対する批難までも続出し、言葉の応酬はエスカレートしていく。
「いつまで甘えてんの? 悲劇のヒロインづらすんじゃねえよって感じですよ」
「そこまでのことかなあ。……ちょっとお尻とか軽く触っただけなのに。……暴行罪とか殺人罪とか重い罪だっていっぱいありますけど、セクハラ罪ってないじゃないですか」
「いつも部下守りたいって言うけど、
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