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“セクハラ後”の映画『ある職場』の険しすぎる会話が放つメッセージ

二ノ宮金子  フリーライター

 エンドロールにクラウドファンディング参加者の名前が並ぶ。映画制作においてもこうして資金を調達するというスタイルはずいぶんと定着してきたように思うが、本作がほかのクラウドファンディングをしている映画と一線を画するのは、セクシャル・ハラスメントとカミングアウトをドラマ化した「日本初」の試みだったというところだろう。

 『ある職場』が旧タイトルの『些細なこだわり』として2019年にクラウドファンディングを募集した際のWEBサイト(「いま求められているジェンダー平等ってなんだろう? 舩橋淳監督最新作「些細なこだわり」の完成を支援してください!」MotionGallery) には、こう明記されている。

 <「みんな同じじゃなきゃダメ」ではなく、「みんな違ってて平等」の社会ってどんなだろう? この問題を身近に感じる事件=セクハラとカミングアウトをドラマ化した映画を作りました。日本映画では、初の試みです!>

 この時、262人からの賛同者を得て200万円という目標額を達成し、この支援金はポストプロダクションと宣伝配給費用に充てられた。

『ある職場』 © 2020 TIMEFLIES Inc.
 2022年3月5日(土)よりポレポレ東中野にてロードショー拡大『ある職場』 © 2020 TIMEFLIES Inc.  2022年3月5日(土)よりポレポレ東中野にてロードショー

 本作品は実在したセクシャル・ハラスメント事件に基づき、その後日談として創作されたフィクションである。メガホンを握ったのは、福島第一原発事故により、町全体で避難を強いられた福島県双葉町の人々を追ったドキュメンタリー映画『フタバから遠く離れて』(2012年)やその続編でもある『フタバから遠く離れて 第二部』(2014年)が、国際的にも高い評価を得ている舩橋淳。『ビッグリバー』(2006年)、『桜並木の満開の下に』(2013年)、『ポルトの恋人たち 時の記憶』(2018年)といったフィクションも数多く手がける、日本映画界では数少ない本格的な二刀流の映画作家でもある。

舩橋淳監督拡大舩橋淳監督
 当初、舩橋は『ある職場』をドキュメンタリーとして制作するつもりだったというが、断念。その理由として、<当初はドキュメンタリー映画としてリサーチを始めたが、実在の人間を映すと、個人名や職場を特定される恐れもあり制作は困難と判断。改めてフィクションとして再構成することになった>(プレス資料)と述べている。

 映画としてその真実を伝えたくても、被害者を守るような社会的システムが構築されているとは言い難い日本では、被害者を世間のさらし者にしてしまうことになる。それだけに声もあげにくい。ドキュメンタリー作品として成立できるような土壌が、日本にはそもそもなかったのだ。

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筆者

二ノ宮金子

二ノ宮金子 (にのみや・きんこ) フリーライター

カルチャー雑誌などの編集者、ライターを経て、フリーに。映画、本、食、温泉などを中心に執筆。関心領域は、貧困、不登校、子どもの病気なども。主な資格に、美容師免許、温泉ソムリエ、サウナ・スパ健康アドバイザーなど。ツイッターは、 https://twitter.com/kinko_ninomiya

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです