ウクライナとロシアのアニメーションに今起きていること
アニメーションを通じて手を繋ぐ制作者たち
叶精二 映像研究家、亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京造形大学・東京工学院講師
2月24日に開始されたロシア軍のウクライナ侵攻作戦が今も続いている。
ウクライナでは、ここ数年アニメーション制作が活発化しており、CM・広告専門や下請けスタジオを含めると50社を超える制作会社があったようだ。各社で働いていた人々の安否が心配でならない。
以下、現時点で得られた情報を集めてみた。日本国内で得られる情報は断片的で不明な点が多いが、少しでも両国で今何が起きているのかを考察する一助となれば幸いである。
今年公開予定だった大作『MAVKA』の行方
2000年代以降、デジタル技術の普及によって各国の3D-CGアニメーション制作の環境は一変した。ウクライナも例外ではない。キエフ市内には大小30社近くの3D-CG制作会社があったようだが、長編やテレビシリーズを制作しているスタジオはごく一部だ。
映画会社FILM.UAが2012年にキエフに設立した「Animagrad Studio」(以下アニマグラード)はその代表的な存在である。アニマグラードは大作長編映画『MAVKA the forest song(マフカ 森の歌)』(Oleksandra Ruban、Oleg Malamuzh監督)を2016年頃から制作中だった。同作品は、ウクライナ国家映画制作庁とアメリカ国際開発庁から支援を受けていた。

『MAVKA the forest song(マフカ 森の歌)』=Animagrad Studio(アニマグラード・スタジオ)の公式サイトより
原作は、ウクライナの女性作家・詩人レーシャ・ウクライーンカ(1871年〜1913年)が妖精の女性と人間の男性の愛を描いた詩劇『森の歌』(1911年)だ。自国の風土や民俗性を重んじた作品作りは、スタジオジブリやアイルランドのカートゥーン・サルーンに通じるものを感じる。
映画は今年12月29日に公開が決定していたが、公式サイトは2月12日以来更新されていない。アニマグラードの代表メールに安否の問い合わせをしてみたが、未だ返信がない。スタジオとスタッフの無事を祈るばかりだ。