ウクライナとロシアのアニメーションに今起きていること
アニメーションを通じて手を繋ぐ制作者たち
叶精二 映像研究家、亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京造形大学・東京工学院講師
ウクライナとロシアで開かれる船上のクロック映画祭
ロシアとウクライナのアニメーション制作者たちは長年手を携え、支え合ってきた。
ウクライナでは、ソ連邦・ウクライナ共和国時代の1920年代から2Dセルや切紙などの様々な短編やテレビシリーズのアニメーションが制作されている。ソユーズムリトフィルム(ソ連邦動画スタジオ)で活躍した作家たちの中にも、ウクライナ出身者は大勢いたはずだ。長編『蛙になったお姫さま』(1954年)を監督したミハイル・ツェハノフスキー(1989年〜1965年)はウクライナのフメリニツキー州生まれだった。
1991年、ソ連の崩壊を受けてウクライナが独立した直後、ロシアとウクライナのアニメーション制作者たちの尽力で第1回「KROK(クロック)国際アニメーション映画祭」が開催された。クルーズ船上で行われる珍しいスタイルの映画祭であり、世界中の作家が集い交流して互いの映画を讃えあう。同映画祭は、2020年まで毎年ロシアとウクライナが交代で主催し、9月〜10月に開催されていた。映画祭にはロシアやウクライナの多数の関連企業が協賛していた。
しかし、2021年は開催されたという報告が見当たらない。コロナ禍や開戦直前の緊張状態の影響があったのかどうかも不明だ。
なお「KROK(クロック)」とはウクライナ語でステップを意味し、止まることなく前進し続ける意味を込めたという。命名はロシアを代表する監督の一人、ガリー・バリディン(1941年〜)。彼はユダヤ人であり、母は戦中にキエフから疎開して彼を産んだという。バリディンは1983年に、色違いのマッチ棒が領地を巡って戦争し、互いに燃え尽きるというストップモーション短編『Conflict』を監督していた。
この映画祭をステップとして、世界に羽ばたいた作家も多い。

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