石原 燃(いしはら・ねん) 劇作家・小説家
東京生まれ。2007年より戯曲を書き始め、10年、日本の植民地時代の台湾を描いた『フォルモサ!』が劇団大阪創立40周年の戯曲賞で大賞を受賞。主な戯曲作品に、義足を盗まれる事件に遭遇した母娘を描いた『人の香り』、NHK番組改編事件を扱った『白い花を隠す』など。2020年、初の小説『赤い砂を蹴る』が出版され、第163回芥川賞候補に。写真は篠田英美撮影。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
これは人権の問題。すべての人が守られていると感じられる世界を夢見て
子供を産むか産まないかを決める。人工妊娠中絶をするなら安全な方法を選択する。女性にはその権利があるのに、心身に不当な傷や重荷を負わされる現実があります。劇作家・小説家の石原燃さんが「描かれた中絶」を通して、この問題を考えます。
2021年夏、私は『彼女たちの断片』という戯曲を書いた。今年3月末に上演予定だ。戯曲のテーマは中絶で、日本ではまだ未承認の薬を使った中絶をする一夜の物語とした。
ちょうど、21年の12月22日に、日本でも中絶薬の承認が申請され、今年中に承認が下りるのではないかと言われており、承認に際しての条件も含め、その動向が注目されている中での上演となったが、こういうタイミングになったのは、狙っていたわけではなく、まったくの偶然だ。執筆の依頼をもらったのは2020年で、このテーマについて本格的に調べ始めたのは、さらにさかのぼって2019年だった。
当時の日本には、中絶薬の承認が近い空気など、まるでなかったと思う。
ちょっとネットで検索すれば、「中絶薬を使うと大量出血してとても危険!」と注意喚起する、産婦人科医院のサイトなどがいくつも引っかかって、中絶薬といえば、「闇の」「怪しい」薬というイメージしかなかった。
私は、日本の中絶医療が世界に比べ遅れているということを、金沢大学の塚原久美さんの著書で知ったが、ネットにあふれる言説とのギャップのなかで、それをどこまで信じていいかわからず、すでに中絶薬を使っているフランスと台湾の産婦人科医に、友人を介して、いくつかの質問をし、自分なりに裏付けを取った(フランスと台湾にはたまたまそれを頼める友人がいたということだ)。
その頃は、中絶薬は安全だなんて言ったら、中絶薬を「闇の」「怪しい」薬だとしておきたい人たちに、攻撃でもされるのではないかと、少し過剰に怯えたりもしていたが、昨年末以降、報道が増えたおかげで、それが80を超える国や地域で承認されている安全な薬だと知られるようになり、芝居の内容も受け入れられやすくなってきたと感じている。
東京演劇アンサンブル公演
『彼女たちの断片』
石原燃作、小森明子演出
2022年3月23~27日
東京・渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール
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