2022年03月17日
4月11日、NHKの連続テレビ小説『ちむどんどん』がスタートする。沖縄方言で「ちむ」は「肝=心」、「どんどん」は「どきどき」で、心が躍る様子を表している。
最初の舞台は沖縄県北部、山原(やんばる)の農村。物語は米軍統治下の1960年代から始まる。黒島結菜(くろしまゆいな)演じるヒロインの比嘉暢子(ひがのぶこ)は、4人きょうだいの次女。父を失った一家で料理を担当している。家族で一度食べた西洋料理に心を奪われ、高校を卒業するとシェフを目指して東京へ向かう。それは折しも1972年、復帰の年のことだった……。
復帰50周年の「朝ドラ」が選んだテーマは「食」。舞台は沖縄から本土へ移る。
暢子は東京のイタリアンレストランの厨房に職を得て技術を学ぶ一方、横浜市鶴見(戦前から沖縄移住者の多い街)の下宿では、階下の沖縄料理屋で故郷の味を再発見する。
彼女が出会うのは、東京人のみならず沖縄出身者や沖縄2世の個性豊かな人々だ。さまざまな出来事に揉まれる中で、暢子は東京で沖縄料理の店を開きたいと思うようになる……。
いずれ放送を見た上で感想を述べたいが、この段階で楽しみなこと気になることを少々。
楽しみの一つは、(私も少し馴染みのある)沖縄タウン鶴見の描かれ方だ。『だからよ~鶴見』(監督・脚本:渡辺熱、2020)も観た。今度は1970年代の鶴見の街の風景が見たい。
気になる一つは、「朝ドラ」の基本要素である主人公の帰郷の仕方。東京で店を開くつもりの暢子が一転、「やっぱり沖縄で」と言い出すのだろうか。出発→試練→成功→帰還(帰郷)は英雄物語の王道パターンであり、「朝ドラ」ではヒロインの転機に重なることも多い。定石を踏まえつつ、意外な展開もほしいところである。
黒島が演じる明るく凛とした女性像と、かつて『パッチギ!』や『フラガール』を書いた羽原大介の脚本が今から楽しみだ。
さて、今回の本題、『ちゅらさん』に移ろう。
放送は2001年の上半期。沖縄を舞台とする初の「朝ドラ」である。関東地区の平均視聴率は22.2%(最高視聴率29.3%、ビデオリサーチ・関東地区)と好調で、このドラマが折からの「沖縄ブーム」をさらに押し上げたのは確かだ。ヒロインの古波蔵恵里(こはぐらえり/えりぃ)を演じた国仲涼子も、「朝ドラ」では初の沖縄出身者。思い込みの強いやや“天然系”のキャラクターを演じて広い層の視聴者をつかんだ。
古波蔵家は恵文・勝子夫妻と3人の子ども(恵尚・恵里・恵達)、恵文の母ハナの6人家族である。八重山諸島の小浜島で民宿を営んでいる。沖縄でいう「男逸女労」そのままに、仕事に精の出ない父親を堺正章、頼りない夫の尻を叩くしっかり者の母親を田中好子が、ウチナーグチ(沖縄方言)風のセリフで演じ、愛嬌のある家族像を造形した。
加えて、恵里の祖母ハナ(おばぁ)役の平良とみや、ガレッジセールのゴリと川田広樹、宮良忍(SHINOBU、元DA PUMP)、比嘉栄昇(BEGIN)などの沖縄出身者がもたらす、時に濃厚で時にさりげない島の雰囲気もそれまでの「朝ドラ」にない味わいをつくり出していた。
つまり、本土の視聴者は古波蔵家を通して、沖縄の緩やかな暮らしのリズムや情に厚い地域共同体の一端を垣間見ることになったのである。中でもその象徴として映ったのが平良の役どころである。
彼女は沖縄の「おばぁ」の典型らしきものを提示した。自分の子(恵文)にはやや厳しい割に孫(恵里)にはめっぽう優しい。合理的で時に自己中心的だが、重要な場面ではシャーマンのように宇宙の摂理を口にする。家族を思う気持ちは強いものの目先の利害に転ぶことなく、長期的なビジョンを示す洞察力を持ち合わせている。
実は『ちゅらさん』全体が、実はこのおばぁの
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