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段田安則&林遣都『セールスマンの死』取材会レポート

コロナ禍のなかに生きている誰しもがわかる物語 

橘涼香 演劇ライター


 過酷な競争社会のなか、挫折し崩壊していく家族の姿を描いた近代演劇の金字塔『セールスマンの死』。

 かつて敏腕セールスマンだった主人公ウィリー・ローマンが、郊外の我が家に帰宅した月曜日の深夜から、自ら命を絶つ火曜日の深夜までの24時間を描いたアーサー・ミラーの手によるこの作品は、エリア・カザンの演出で1949年にニューヨークで初演され、トニー賞、ニューヨーク劇評家賞、ピューリッツア賞を受賞した。初演当時としては斬新だった24時間の時間軸のなかに、フラッシュバックの手法を用いてウィリーや家族の過去の記憶を折り込みながら進む舞台展開が「近代演劇の金字塔」と称され、以来現在まで国内外の名優によって上演が重ねられている。

 そんな名作『セールスマンの死』が、気鋭のイギリス人演出家ショーン・ホームズを演出に、舞台・映像の世界で幅広く活躍する段田安則を主人公ウィリー役に迎え、2022年4月4日~29日の東京パルコ劇場での上演を皮切りに、松本、京都、豊橋、兵庫、福岡の各地で上演される。共演にはウィリーを支える妻リンダ役に、本格的舞台への出演は25年ぶり2回目となる鈴木保奈美をはじめ、福士誠治、林遣都、鶴見辰吾、高橋克実など豪華俳優陣が集結。70年前に書かれた作品ながら、社会の偏向が生んだ怒れる弱者であるウィリー・ローマンとその家族、友人の姿が、コロナ禍に揺れる現代日本にもそのまま通じるドラマとして立ち現れてくることに、いま大きな期待が集まっている。

 今回パルコ・プロデュース2022『セールスマンの死』で、主人公のセールスマン・ウィリー役を演じる段田安則と、次男ハッピー役を演じる林遣都による取材会が開かれ、作品への出演を決めた気持ちから、互いの印象、上演への抱負を語り合ってくれた。(取材会は2021年12月に行われました)

強いて言うなら中年のおじさんたちに観て欲しい

段田安則(右)と林遣都=岩田えり 撮影拡大段田安則(右)と林遣都=岩田えり 撮影

──出演の決め手を教えてください。

段田:林遣都君が出ると聞いたので(爆笑)。あ、そういうことじゃなくてですね?(笑)。二十歳くらいの時に滝沢修さんが演じられたこの作品を観劇しまして、「これがあの名作か」と思いました。でも、じゃあそれからずっとこれを演りたい!と思って過ごしていたという訳ではないんですが(笑)、所属事務所の社長から「そろそろ『セールスマンの死』を演れる年齢になったんじゃないか?」と言われまして。そこで「そうか、俺、もうそんな歳なのか」と思いましたし、名作で名だたる名優の方々が演じてこられた作品なので、じゃあ僕も挑戦してみようかと思った次第です。

段田安則=岩田えり 撮影〈ヘアメイク:藤原洋二(UM)・スタイリング:中川原寛(CaNN)〉拡大段田安則=岩田えり 撮影〈ヘアメイク:藤原洋二(UM)・スタイリング:中川原寛(CaNN)〉

──65歳の節目の歳にいよいよということですが。

段田:そうですね。ウィリー・ローマンが63歳という設定なので、ちょうどいまやるべき、一番良い時期なのかなと思います。

:数年前に長塚圭史さんが演出された「セールスマンの死」を観劇しました。観終わった瞬間「いつかこの作品に参加したい」と思ったんです。なので、このお話をいただいた時はまさかこんなに早く実現するとはと驚きましたし、段田さんをはじめとしたカンパニーに参加させていただけるのがとても嬉しかったです。

──最初にこの作品をやりたいと思った時に、演じたかったのもハッピーですか?

:演じてみたいと思っていたのはビフです。これは絶対に言わないつもりだったんですが(笑)。俳優を続けていって、いつか出たいと思った作品でしたし、ハッピーを演じさせていただくと決まって、改めて読むと共感できるところもたくさんあったので、いまはただただ嬉しいです。

林遣都=岩田えり 撮影〈ヘアメイク:主代美樹(GUILD MANAGEMENT)・スタイリング:菊池陽之介〉拡大林遣都=岩田えり 撮影〈ヘアメイク:主代美樹(GUILD MANAGEMENT)・スタイリング:菊池陽之介〉

──第二次世界大戦中のアメリカの話ですが、普遍的な家族のあり方をテーマにしている作品でもあると思いますが、現代の日本で特にどんな人に観て欲しいですか?

段田:これはもちろん女性にご覧いただいてもわかりますし、このコロナ禍のなか生きている私たち皆によくわかるお話なのですが、強いて言うならお父さんですね。お父さんはあんまり芝居は観ないかな(笑)。中年男性で芝居を観る人は少ないので、やはりこの作品は日本のお父さんに観ていただけると嬉しいなと。日本のお父さんなら、息子がいようがいまいが、結婚していようがいまいが、あーそうだなぁと思っていただけるのではないかと思いますので、本当に強いて言うならば、中年のおじさんたちに(笑)観ていただきたいと言いたいです。

──何歳くらいの男性を想定していますか?

段田:自分もそうだったのですが、若い時に観るとやはりビフやハッピー、実年齢に近い役に自分を投影しますので、その時は息子をやりたいと思いました。ですから若い方は林君や福士誠治君に共感して「家に帰ったらお父さんに優しくしよう」と思っていただければいいので、男性に観て欲しいです。もちろん女性もいいんですよ!林君もいますしね!(笑)。ですから「特に」と言うのであればです。

:本当に家族のことを考えさせてくれる作品で、僕は実生活でも兄がいて、僕自身次男なので自分の家族と重ね合わせてしまう部分も多いです。兄とはこれまであまり仕事の話をしてこなかったのですが、この作品は初めて兄に観て欲しいと思いました。

段田:そう聞くと、ハッピーをやるべくしてやるという感じだね。

:はい、そう思います。

段田安則(右)と林遣都=岩田えり 撮影拡大段田安則(右)と林遣都=岩田えり 撮影

──役柄に共感するところや、大切にしたいところは?

段田:たった24時間の話なのですが、この舞台で描かれる前の時代には子供たちも学校で輝いていた時期もあり、お父さんもセールスマンとして上手くいっていた時もあって、ローンで家も購入している。輝いていた時期がきっとあるんですね。でも自分も含めてなのですが、夢ばかり見ていて、じゃあ実際の生活はどうなっているんだ?というところを見ていない時ってありますよね。今生きている現実が辛くて、もしああだったら、こうだったらとか、もっと自分が輝ける場所があるんじゃないか?とばかり思ってしまうことは、誰しもあると思うのでそこには共感できます。大事にしたいのは家族です。家族と一口に言ってもひと家族ずつ形は違いますし、一言も口をきかない家族もいるのでしょうけれども、例えば殴っても愛している。愛憎の両方が他人よりも深いこの家族の姿に共感できますし、大切にしたいところです。

:一見上手くいっている家族の間で、ずっと抱えている口にできないことが深いところでねじ曲がっていく。自分自身にもそういう時期はあったので共感できます。ハッピーは周りを見ながら、バランスを取りながら生きているのですが、それがまた更にかみ合わなくなっていくことにもつながるので、そういう点はしっかり見せていけたらなと思います。

家族や自分の過去を誇りに思うからこそ現実を直視できない

段田安則=岩田えり 撮影拡大段田安則=岩田えり 撮影

──段田さん、ウィリーにとってセールスマンという仕事、また家族とはどういう存在だと思われますか?

段田:この作品は消費社会がはじまり物質文明がやってきて、セールスマンが花形の職業だった時代から、アメリカが戦争に向かっていくことによって、それが揺らいでいく時のブルックリンを描いています。ですからウィリーにとってセールスマンという仕事は誇りだったでしょうし、家族も二人の息子と、しっかり者の妻という自慢の家族だったでしょう。だからこそ自分はこんな扱いを受けるはずの人間じゃない、こんなものじゃないという気持ちを強く持っている。ましてや自慢の息子たちが、こんなところでくすぶっているはずがないと思っているんですね。もちろん自分の給料がどんどん安くなっているとか、そういう現実もわかっていない訳ではないんだけれども、見ないフリをしている。

夢の方に、理想の方に傾いていないと生きていけない男が、それができなくなった時に、こういう結末を迎えるんだと思います。過去にこれだけの売り上げを残した、有名人ともつきあいがあった自分に誇りを持っていたからこそ、今の自分を直視できないんだなと感じます。

林遣都=岩田えり 撮影拡大林遣都=岩田えり 撮影

──林さん、ハッピーから見た兄のビフ、父のウィリーはどんな存在ですか?

:ずっと幼い頃から父親の兄に対する期待を感じていて、表に出してはいないのですが、それに対する劣等感があったと思うので、そこを踏まえながら兄弟の関係性を作っていきたいです。父親が置かれている現状もわかってはいるのですが、根底には若い頃の父親のかっこいい姿、自分たちに愛情を注いでくれた姿が全く変わらずにあるんだと思います。僕自身この仕事をしていて多くの素敵な役者さんと出会ってきましたが、父親は僕にとって誰よりもいつまでも変わらない特別なかっこいい存在なんです。だからこの兄弟にとっても父親というのはきっとそうだと思うので、それをしっかりと胸に置いて演じていきたいです。

──お互いの印象はいかがですか?

段田:林君とまた一緒にできるんだと聞いてまず嬉しかったです。その時点では長男と次男どちらをやるのかな?と思ったし、ビフもいけると思うんですが、実生活でも次男だと聞いて、僕も次男なので、次男ってやっぱり長男のことをちゃんと見ていて、現実的な思考もするので、ハッピーにぴったりだなと思います。俳優・林遣都については、もう最初に仕事をした時から信頼していて、僕よりとても真面目ですし(笑)、一緒に仕事をしたいなといつも思う俳優さんです。あとは実家が近所なんです(爆笑)。

:僕は間近で段田さんのお芝居を見せていただいた時からずっと感じていたことですが、こうして取材の機会でもご一緒させていただいて、お話を含め、改めてやっぱりすごい方だと感銘を受けています。

段田:本当!?

:はい。恐れ多くて正直あまり語りたくないくらいなのですが(笑)、袖にいらっしゃる時、もっと言えば楽屋でお茶を飲んでいらっしゃる時と舞台上のテンションが変わらない。そのまますーっと舞台に出ていかれる、いったいどんな感覚で舞台に立っていらっしゃるのか、その感覚を体感してみたいと思った瞬間をハッキリ覚えています。まだまだ舞台経験の浅い僕としては、そんな段田さんとまたご一緒させていただける、この時間を大切にしていきたいと思います。

段田安則=岩田えり 撮影拡大段田安則=岩田えり 撮影

──映像のお仕事も多いお二人ですが、舞台を一緒にやるからこそわかってくるというものはありますか?

段田:やはり舞台ですと、まず圧倒的に一緒にやる時間が長いので、濃密なやりとりができますね。毎日本番を重ねるわけで、日々体調も違いますし、精神的にも違うなかで、毎日やることで、その人の芝居もよくわかりますし、面白くなるところも多いと思います。

:僕はまず稽古が大好きで、一緒にお芝居を追求していく時間、稽古を重ねていく、周りの役者さんとの壁がない時間がとても好きです。

林遣都=岩田えり 撮影拡大林遣都=岩田えり 撮影

──演出のショーン・ホームズさんについてはどうですか?

段田:過去に演出された作品をいくつか拝見したという段階なのですが、英国の演出家さんの目で見たアメリカ演劇がどのようなものになるのかが楽しみですし、まだ自分では気づいていない面を気づかせていただけたらと期待しています。海外の演出家の方はだいたい優しくて「素晴らしい!」と言ってくださるので(爆笑)、それに乗せられていけたらいいんじゃないかなと思います。

:(取材日には)まだお会いできていないのですが、僕は海外の演出家の方とご一緒させていただくのが初めてなので、その初めての経験を一番楽しみにしています。

段田安則(右)と林遣都=岩田えり 撮影拡大段田安則(右)と林遣都=岩田えり 撮影

──では改めて楽しみにされている方たちにメッセージをお願いします。

段田:『セールスマンの死』という脚本自体をお好きな方もいらっしゃるでしょうし、林君のファンの方もいらっしゃいますし、鈴木保奈美さんを久しぶりに見てみたい!など、色々な方がいらっしゃると思います。3人くらいは僕を見てみたいという方もいらっしゃると思いますが(笑)、自分にとっては2021年には出演舞台がありませんでしたので、久しぶりの舞台になります。歴代の名優がやられた名作をやらせていただくということで、ここは一発気合いを入れないと思っていますので、このメンバーでお届けする『セールスマンの死』を素晴らしいものにしていきたいので、よろしくお願い致します。

:この作品に出演できることにワクワクしています。僕自身がお客さんとして観たいと思うぐらい素晴らしい出演者の方たちなので、自分がその一員として参加できる喜びをかみしめて毎日の稽古を務めていきたいと思っています。是非注目していただけたら嬉しいです。

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パルコ・プロデュース2022
『セールスマンの死』
東京:2022年4月4日(月)~29日(金・祝)  PARCO劇場
松本:2022年5月3日(火・祝)  まつもと市民芸術館 主ホール
京都:2022年5月7日(土)~8日(日)  ロームシアター京都 メインホール
豊橋:2022年5月13日(金)~15日(日)  穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
兵庫:2022年5月19日(木)~22日(日)  兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
北九州:2022年5月27日(金)~29日(日)  北九州芸術劇場 大ホール
公式ホームページ
[スタッフ]
作:アーサー・ミラー
翻訳:広田敦郎
演出:ショーン・ホームズ
[出演]
段田安則、鈴木保奈美、福士誠治、林遣都、
前原滉、山岸門人、町田マリー、皆本麻帆、安宅陽子、
鶴見辰吾、高橋克実

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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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