記念公演『レビュー 春のおどり』の見どころはここ!
2022年03月21日
OSK日本歌劇団(以下OSK)は今年で劇団創立100周年である。
商業劇団が100年続く。けっこうすごいと思いませんか。
2月には、劇団発祥の地である「大阪松竹座」で、OSK日本歌劇団創立100周年記念公演『レビュー 春のおどり』が上演された。この公演については、朝日新聞でも公演評や、OSK100周年企画記事などが出てるのだが、これが大阪本社版掲載記事で東京の人の目にはなかなか触れない。地方発の文化は、地方で消費されて終わってしまうのをどうにかしたいものだ(朝日新聞デジタル版には長文の公演評を私が書きましたので有料版ですがリンクを貼っておきます)。
「100周年「春のおどり」開幕 青木るえかの見たOSKの新しい姿」
しかし。この『春のおどり』、3月25日(金)から27日(日)まで、3日間ではありますが、東京・新橋演舞場に所を変えて上演されるのです!
そこでひとつ、OSKに馴染みのない関東の人に向けて、「ちょっと面白そう、見に行ってみようか」と思ってもらうためにこの記事を書いてみる。
もちろん東京の人だけでなく北海道でも九州からでも見に来てほしい。大丈夫、まだチケットは取れます!(文末に詳細有り)
今、大きな劇場でこういう形式の公演というのは実はすごく珍しい。芝居やミュージカルか、あるいはコンサートがほとんどだ。
OSKにとって『春のおどり』がもっとも重要な、大きな公演であるが、それは「何も考えずに楽しめるエンターテイメント」としての「レビューショー」を伝統として、その楽しさを広め、後世に伝えていこうという強い意志なのである。
では、その記念すべき100周年の『春のおどり』、見どころはどこか。何を見ればいいのか。
OSKといえば「生命力あふれるダンス!」「見ているだけで元気が出てくるステージ!」などと言われているが、基本、好きなように見ていただければいい。レビューショーというのはそういうものだ。
しかし、私としては、ここは思い切って、
「スターを見ろ!」
と言いきってみたい。
論座がwebメディアであることの利点を最大に発揮するべく、スターのアップ写真を多めに載せるので見てみてください(もちろんここに写っているのがスターのすべてではありません。たまたま写ってないだけで他にもいっぱいいます)。
レビューというのは集団芸で、ラインダンスなんかまさに「集団の美」を見せるものであるが(そしてOSKのラインダンスはそのスピード、足を上げる高さ、回数、そしてその揃っていることで、名物になっているわけだが)、やってるのは一人の人間だ。その一人一人に魅力がなかったら、集団で魅せることだってできるわけがない。
OSKがはじめての人には、
「なんでもいいから目についたスターを追え!」
「ストーリーなんてないんだから、好きなように好みのスターを追ってろ!」
「途中で誰が誰だかわかんなくなったらさっさと次に目についたスターを追え!」
これが私のアドバイスだ。『春のおどり』はそういう楽しみ方ができる。幕が降りた時にはウソみたいに気分が上がっているはずである。
……というだけではあまりにも『春のおどり』がどういうものかわからないので、内容をちょっとご紹介したい。
日舞にはすごい場面がある。舞台は江戸の吉原の廓。写楽(あの浮世絵の)が出てきて、美形の太夫が出てきて、ああ吉原の色模様かと思うと、真打ちみたいな太夫がいきなり黒燕尾服の美紳士に変身する! えーっ! 他の太夫や花魁たちはドレスに変身、タンゴを踊り出す。吉原の空にはなぜかムーランルージュの幻影が……。
はっきりいってワケがわからない。
写楽は腰抜かしてびっくりして、しかしこんな夢のような光景を見たことによって一皮むけた絵師となり、その盛名はやがてムーランルージュにまで届くのだった。……というのは勝手な解釈で、舞台上での説明は何もない。黒燕尾に変身した太夫はそもそも男なのか女なのかとか、そんなこと考えてもしょうがない。「うおー、すごい」と思いながら見ていればいい。
ここで写楽をやっている翼和希(つばさ・かずき)と、黒燕尾で写楽を惑わす太夫を演じるトップスターの楊琳(やん・りん)のからみ。個人的にこの『春のおどり』でいちばん好きなとこです。ワケがわからないのにすごく興奮できます。
これなんか、三章構成になっている日舞のうちの一部、さらにその中の一場面で、この廓の場面は他にもいわくのわからない立ち回りやら、女スリと黒装束の闇太郎のからみやら、「廓ワンダーランド」みたいなことになってるし、廓に入り込む前には清浄な翁の世界で三番叟(さんばそう)が舞ったり、廓を出たら月世界風の群舞でモダンダンスみたいに盛り上げるとか、こんなふうに書いたら「いったいなんなんだ?」と思うかもしれませんが、客席で見てるとふつうに納得。「うわあああ、すごい」と思っているうちに終わる。これぞレビュー。
洋舞は「100周年記念公演」ということでOSK往年の名場面をオマージュした場面がいっぱい出てくる。周年記念公演につきもののよくあるパターンである。でも元ネタの知識がなくたってなんの問題もない。というより知らないほうがいいぐらいである。
たとえば1923(大正12)年にOSKが松竹座で初演した『アルルの女』、これをこの『春のおどり』でも取り上げている。これが、音楽は斬新にアレンジされているし、アルルの女とおぼしき美女(舞美りら)は、得体の知れない迫力ですっごい存在感なんだけどいつの間にかいなくなって、アルルの女に骨抜きにされたらしい男(楊琳)が知らない間に別の男女を操ったりしている。
『アルルの女』ってこういう話だっけ? でもなんだかわからないけどカッコいいので問題はない。ここでヘタに「これはどういうことか」とか考えていると次から次へと来る場面やスターを見逃す。
もちろん、全編にわたって踊りっぱなしだ。カラリと明るく乾いた群舞は、OSKが最大の見せ場として得意とするものだから、無条件に気持ちが上がる。「見てうっとりする」というよりは「見ていて体が動き出す(けれど動くわけにいかないので体脂肪が勝手に燃える)」というのが、OSKのショーだ。見終わって家に帰ったらいい感じに体も絞れているはず。
そしてフィナーレにびっくりする。
歌劇のフィナーレ、というと「階段を下りてくる」のがつきものみたいになっている。宝塚歌劇団の、あの巨大な階段でお馴染みだろう。あの「階段降り」というのは「スターの降臨」をわかりやすく表現していて、見た目にもハデだし、フィナーレにはなるほど最適な舞台装置だ。
OSKも、宝塚歌劇団の大階段ほどではないが、フィナーレはいつも階段を降りてくる形式だった。
今回の『春のおどり』のフィナーレにそれはない。舞台は真っ平ら。ついでにいうと、歌劇でイメージされるところの「羽根を背負う」のもない。舞台の後ろから、身軽に、小走りにこちらに向かってくる。真っ平らな広い舞台を、みんなが同じ地平でフィナーレを迎える。これが、見ているとすごく新鮮だ。
……と、私が見て印象に残ったところをいくつかご紹介してみたが、ほんとうにこれは内容の一部でしかない。『春のおどり』は、OSKが100年続いたことと、またこれから100年先まで続いていこうという意志もサラリと提示されたショーになっている。この「サラリ」というのも、OSKが持つ「粋さ」で、案外知られていないOSKの特質だ。このサラッとしたところは東京の人にもわりと理解しやすい美意識なのではないかと思う。大阪といってもコテコテばかりではない。そのへんも感じてもらえたらと思う。
最後に、OSKを語る上で、避けて通ることができない、宝塚歌劇団についてちょっと触れておきたい。
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