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野村萬斎ラストメッセージ【上】――日本文化の中の芸術監督とは

世田谷パブリックシアター「解体新書」、幻の「東京五輪」開会式案も明かす

野村萬斎 狂言師

 狂言師・野村萬斎が、20年間務めた世田谷パブリックシアターの芸術監督を2022年3月末で退任する。芸術監督企画として続けてきたトークとパフォーマンス『MANSAI◉解体新書』も最終回となった。そこで語った萬斎の体験的公共劇場論、そして演劇とは、日本文化とは――。
(2022年2月24日、東京・三軒茶屋の世田谷パブリックシアター、構成・山口宏子)

「初心忘るべからず」を語る

 皆さま、ようこそおいでくださいました。『MANSAI◉解体新書 その参拾弐 完 「檄」〜初心不可忘〜』です。

 私、3月末日をもって、この世田谷パブリックシアター芸術監督を退くことになりました。この『MANSAI◉解体新書』もここで一区切りということで、今回はゲストなしで、この20年間に思ったことなどをお話ししたいと思っております。

 本日のテーマの「初心忘るべからず」。

拡大『MANSAI◉解体新書 その参拾弐 完 「檄」〜初心不可忘〜』のオープニングで話す野村萬斎=2022年2月24日、東京・三軒茶屋の世田谷パブリックシアター、森日出夫撮影
 これは、能楽の大成者である世阿弥が『花鏡』という書物に残した言葉です。私たち能楽師にとって大変大切な言葉ですが、皆さんの人生にも役立つのではないか、と思います。

 世阿弥自身は、この言葉にはいろんな解釈が成り立つと言っています。私が思う一つの意味は、観客の方々に楽しんでいただきたいと考え、こうやって今日も舞台に立ち、もし皆さまに楽しんでいただけたなら、そこに花が咲く――ということです。

 そのためには、それなりの準備が必要で、土壌、つまり、この場所を用意して、種を埋め、水と養分をやり、いい空気を吸ってもらって、はじめて花を咲かせることができる。舞台芸術を含め、各種の芸術につながる話です。また、皆さんも毎日、何かを吸収しながら、自分が生きる土壌をこしらえ、そこに、それぞれの花を咲かせることができれば、豊かな人生になると思います。

 中にはしおれかけている方もいるかもしれませんね。あ、しおれるというのは、年をとるという意味じゃないですよ。世阿弥は、年をとったら、とったなりの花の咲かせ方がある、と説いています。舞台芸術の花も、人生の花も、同じように考えることができます。その意味で、非常に重要な言葉だといえるでしょう。

 この「初心」をどう持ち続けるかということが、世田谷パブリックシアターにおいて、芸術監督としての私の方針でもありましたし、そのための養分やいろいろな知識を得る機会だったのが、これまでの『MANSAI◉解体新書』だったと思います。

 取り上げたテーマは、例えば身体であったり、演劇の百貨店といわれるシェイクスピアであったり、多岐にわたりましたが、いろいろな分野のゲストとお話をしながら、「表現することとは」を考えてきました。

 ジャンルが違うと方法論も違うわけですが、目指すことや、考え方には重なる部分も多く、そこを紐解きながら、何が演劇や舞台芸術には必要かということを探ることで、私自身、たくさんの刺激を受けながら、観客の皆さまと一緒に勉強させていただきました。幸いご好評をいただき、32回実現できたことに、ここで改めて感謝を申し上げたいと思います。

『MANSAI◉解体新書』
 野村萬斎が芸術監督に就任した2002年に始めたトークとパフォーマンスを合わせた企画公演。20年間で32回開催した。「からだ」「型」「日本語」「俳優」「振り」「ものまね」「扮装」「人形」「鏡」「声」など多様なテーマを第一線のパフォーマー、文化人らを招いて考察してきた。萬斎自身は舞台芸術を人気店のラーメンにたとえ、「厨房に入って秘伝のスープの材料をさぐり、そのおいしさの素をつきとめてゆくような試み」と語っていた。
 主なゲストは、伊藤キム、吉田鋼太郎、市川右近(現・右團次)、国本武春、白石加代子、豊竹咲甫太夫(現・織太夫)、いとうせいこう、近藤良平、コロッケ、森村泰昌、桐竹勘十郎、杉本博司、篠山紀信、伊東四朗、大友良英、落合陽一、首藤康之、神田伯山ら。

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筆者

野村萬斎

野村萬斎(のむら・まんさい) 狂言師

1966年生まれ。父は人間国宝の野村万作。3歳で「靱猿」子猿役で初舞台。東京芸術大学卒。古典狂言に加え、新作狂言、現代演劇など多彩な作品で、国内外の舞台に立ってきた。ドラマや映画『陰陽師』などでも人気を集める。2002年から22年3月まで、世田谷パブリックシアター芸術監督。03年芸術選奨文部科学大臣新人賞。06年『敦―山月記・名人伝―」で紀伊国屋演劇賞個人賞、朝日舞台芸術賞。17年の新演出『子午線の祀り』では読売演劇大賞最優秀作品賞、毎日芸術賞千田是也賞。21年石川県立音楽堂邦楽監督に就任、公益社団法人全国公立文化施設協会会長。22年観世寿夫記念法政大学能楽賞、松尾芸能賞・大賞。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです