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電動キックボードが歩車未分離道で歩行者にもたらす危険

国交省の保安基準案には問題が多い

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

 最近、電動キックボード(以下「KB」)に関わる法改定に向けた動きが急である。3月4日には、時速20km以下のKB利用には免許取得を不要にし、時速6km以下の場合には歩道をさえ走行可能にするという内容の道路交通法の改正案が、閣議決定されたという(朝日新聞2022年3月5日付)。

 私は前稿「電動キックボードの歩道走行を認めてはならない」で、歩道上のKB走行について、歩道上の自転車走行とともに懸念を示しておいた。だが問題は歩道上の走行につきない。一般に車道とも歩道ともみなされにくい、日本中いたるところにある、歩車未分離道路(以下「未分離道」)でのKB、自転車の問題も大きい。

 例えば本年3月8日、東京・渋谷区道玄坂でKBが歩行者を巻き込むひき逃げ事件が起きており、警視庁は運転者を過失運転致傷などの容疑で書類送検した。まだ全国的に普及する前だというのに、2021年の1年間に都内だけで、KBがからむ事件が68件も起きたという(朝日新聞デジタル2022年3月8日付配信記事)。

歩道を走行していた電動キックボードの利用者=2021年6月、大阪市中央区歩道を走行する電動キックボードの利用者=2021年6月、大阪市中央区

未分離道も車道──そこでの危険性

 道交法では、車道は、「車両の通行の用に供するため縁石線若しくは柵その他これに類する工作物又は道路標示によって区画された道路の部分」と定義されている(道交法第2条3号、強調杉田)。

 この規定からは、並行して歩道が設置された道路のみならず、歩道のない未分離道さえ、縁石や柵の代わりとなる「道路標示」さえあれば──あったとしても安全確保機能は縁石・柵とは全く比較にならない上に、実際にはそれさえない道路がいたる所にある(実例は後述)──車道と見なされていることが分かる。市町村道ともなると、未分離道が圧倒的であろう。

 だが問題は、一般に「車道」というと、私たちは歩道が並行して設置された道路を念頭におき、圧倒的多数を占める未分離道のことを考慮外に置きやすいという点である。未分離道で歩行者がさらされる危険は、非常に大きい。

 例えば2021年6月に千葉県八街市で小学生をまきこんだ凄惨な死亡事件が引き起こされたが、現場は通学路に指定されていたにもかかわらず未分離道であり、かつそこには、子どもが歩くことを想定した最低の道路標示さえなかった(「「八街事件」は今後も起こる。運転者のミスは偶然ではなく必然である」)。これを許しているのは、道路構造令における車道の定義である。「〔車道とは〕専ら車両の通行の用に供することを目的とする道路の部分(……)をいう」(第2条4号)。ここには、人間に対する視点が欠如している。

千葉県八街市
写真説明	事故現場にはタイヤの跡が残っていた=2021年6月29日午前8時41分、千葉県八街市千葉県八街市の事故現場=2021年6月29日

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国交省の保安基準──識別点滅灯火

 国交省は、通常国会での成立に向けて、KBの保安基準に関わる法改定案を検討してきたが、2月28日、その素案が同省の「有識者による作業部会」に示された(朝日新聞2022年3月1日付)。

 それによれば、免許取得は不要という警察庁方針を踏まえつつ、最高速度(時速20km)を超えないようKBにリミッターを付けると同時に、歩道上の走行を考慮して、時速6km以下(=歩道走行の条件)か否かが分かるよう「識別点滅灯火」の装備を義務化するという。これは、未分離道でのはるかに危険な状況を改善するためにも資する、と想定されているのであろう。

 だが仮にそうだったとしても、未分離道を歩く歩行者の安全が本当に保たれるのか。

「25mからの視認」では遅すぎる

 識別点滅灯火は、「前後各25㍍から視認でき(る)」よう設計されるという(同上朝日)。

 だがその効果は疑問である。

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