2022年03月28日
ロシア軍のウクライナ侵攻が続いている。病院が標的にされ、幼い子どものいのちが犠牲になった。そのうえウクライナ国内の原子力発電所までもが砲撃され、国際的な批判が高まっている。仏教界・キリスト教界など日本宗教界は相次いで停戦を求める声明を発表した。
そうした中で世界的なネットワークを持つ世界宗教者平和会議(WCRP)国際委員会(ニューヨーク)とWCRP日本委員会(東京)の特色ある声明に注目した。
(注)世界宗教者平和会議はWorld Conference on Religion and Peace(WCRP)とされてきたが、近年はReligions for Peace(RfP)が用いられる。「WCRP/RfP」という表記もあるが、日本ではWCRPが定着しているため、同表記とした。
2月28日に「ウクライナ紛争に関する声明」(英文、邦訳あり)を発表したWCRP国際委員会。その中で、「私たちはロシア正教会、ウクライナ正教会・宗教団体評議会(UCCRO)、ロシア諸宗教評議会(ICR)の兄弟姉妹、彼らの宗教宗派の信者、そしてこの地域のあらゆる宗教の人々のために祈り、すべての宗教の根本的な目的と本質を思い出し、平和を求めて立ち上がり、声をあげるよう呼びかけます」とロシアとウクライナ両国の諸宗教組織に平和的な解決を要請している。
当事国の政治家ではなく、なぜ諸宗教組織なのか。それはWCRPの歴史と深くかかわっている。WCRPは1970年10月、京都で開催された第1回世界大会を機に創設された。こんにちでは世界90カ国あまりに国内組織がある。国によってキリスト教が主流だったり、イスラームが多数だったりしても、少数派の宗教を尊重する方針は共通している。
4~7年ごとに行われる世界大会は、3年前のドイツ・リンダウ大会で10回を数えた。多くの難民や移民を抱えるドイツでの大会ではシュタインマイヤー大統領がスピーチし、外交政策と宗教を関連付けて取り組んでいることを話した(『第10回世界宗教者平和会議・世界大会報告』2019年開催)。
日本では実感しにくいが、テロ問題のほか難民・移民問題に直面している欧米では宗教を無視することはできない。WCRPは国際NGOとして国連経済社会理事会の総合協議資格を有し、国連諸機関と共に行動することもある。
WCRPは宗教間対話や協力による紛争和解に取り組んできた。ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争時には当時の事務総長がイスラーム、カトリック、正教会、ユダヤ教の4大宗教指導者の間を奔走し、ボスニア諸宗教評議会設立にこぎ着けた(1997年)。また9・11後のイラク戦争終結後には国土復興にあたり、日本委員会が主導してイスラームのスンニ派とシーア派、クルド人のイスラーム、カトリックの代表らを京都に招いて国際シンポジウムを開いた(2004年)。
現地では、異なる宗教の指導者たちが直接会うことが難しく、お互いのメンツや周囲の視線もあってホンネで話し合える機会はほとんどない。それが離れた国で、第三者が加わることでスムーズに話し合いができる。なによりも宗教者間の相互理解が深まり、友情が芽生える。過去の経験からWCRPはこの有効性を認識している。
WCRP国際委員会がロシアとウクライナの諸宗教に働きかけるのは、こうした実績があるからだ。またロシア正教会幹部は、WCRP国際役員に名前を連ねてもいる。ロシア正教会とウクライナ正教会は対立しているが、
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