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【公演評】花組『冬霞の巴里』

永久輝せあが挑む、19世紀末のパリで復讐に燃える青年の苦悩と幻想的な世界

さかせがわ猫丸 フリーライター


 花組Fantasmagorie『冬霞(ふゆがすみ)の巴里』が、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演されました(4月8日~14日/東京建物 Brillia HALL)。

 主演は、端正なマスクにシャープなダンス、色香ある歌声も魅力の永久輝せあさんです。これが待望の初東上主演公演となりました。

 この作品は、19世紀末のパリを舞台に、幼い頃、母と叔父に父を殺害された青年オクターヴの苦悩や葛藤、復讐を描いたもので、古代ギリシアの作家アイスキュロスの悲劇作品「オレステイア三部作」をモチーフとしています。演出は、2019年バウホール公演『龍の宮物語』で鮮烈なデビューを果たした指田珠子先生。今回も独特の世界観で、ただの復讐劇では終わらない、深い余韻を残す幻想的な物語を描き出しました。(以後、ネタバレがあります)

永久輝の細かな心情表現が光る

『冬霞の巴里』公演から、永久輝せあ=岸隆子 撮影拡大『冬霞の巴里』公演から、永久輝せあ=岸隆子 撮影

――19世紀末パリ。青年オクターヴ(永久輝)は、幼い頃に殺された父オーギュスト(和海しょう)の復讐を果たすため、姉アンブル(星空美咲)とともにこの街へ帰ってきた。犯人は母クロエ(紫門ゆりや)と父の弟ギョーム(飛龍つかさ)だと確信したまま田舎の寄宿学校で育ち、オクターヴは新聞記者に、アンブルは歌手として自立していたが、祖父の葬儀を機に戻ったのだ。2人は実家ではなく、うらぶれた下宿に滞在するが、そこはヴァランタン(聖乃あすか)ら、個性的な住民たちのたまり場だった。

 19世紀末のパリでは、ベル・エポックの華やかさと、汚職や貧困が同居し、無政府主義の思想も一部では浸透していました。そんな混沌とした町を象徴するかのように、舞台ではアバンギャルドなメイクにボロボロの衣装を着た人物と、ふだんイメージするパリジャン・パリジェンヌに、はっきりと二分されています。

 オクターヴ演じる永久輝さんは、その中でもひときわ輝くような美しさ。白いシャツに黒いリボン、柄物のベストにロングジャケットも気品にあふれ、甘い貴公子の正統派宝塚男役らしさが香ります。

 オクターヴはひたすら復讐心に燃えていました。愛する父を殺された憎しみのあまり、いつ暴発するかわからない狂気と隣り合わせで、視線の冷たさはもちろん、ギョームと遊びで剣を合わせる際のふるまいなど、張り詰める緊張感には思わず背筋がぞっとするほど。

 それでも内に秘めた彼の優しさや幼さ、弱さが時折、顔をのぞかせます。それはきまって、姉アンブルとともに過ごす時でした。

 憎しみ、苦しみ、恨み、葛藤、嫉妬、愛……あらゆる感情に翻弄されるオクターヴの心は、まさに激動だったことでしょう。永久輝さんは、細かな揺れ動きを、表情や空気、全身を使って演じ切っていました。

◆公演情報◆
『冬霞の巴里』
2022年3月25日(金)~4月2日(土) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(終了)
2022年4月8日(金)~14日(木) 東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
公式ホームページ

[スタッフ]
作・演出/指田 珠子

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筆者

さかせがわ猫丸

さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター

大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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