前田和男(まえだ・かずお) 翻訳家・ノンフィクション作家
1947年生まれ。東京大学農学部卒。翻訳家・ノンフィクション作家。著作に『選挙参謀』(太田出版)『民主党政権への伏流』(ポット出版)『男はなぜ化粧をしたがるのか』(集英社新書)『足元の革命』(新潮新書)、訳書にI・ベルイマン『ある結婚の風景』(ヘラルド出版)T・イーグルトン『悪とはなにか』(ビジネス社)など多数。路上観察学会事務局をつとめる。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【46】地上のぽっぽやと地底の炭坑夫への挽歌~「テネシーワルツ」「夢は夜開く」…
しかし、主題歌でもなくただの挿入歌にすぎない「テネシーワルツ」が、この映画をかくもショーアップできたのは、いったいなぜなのか。
それは、日本で「テネシーワルツ」をカバーして大ヒットさせた江利チエミが、主役を演じた高倉健の元妻であり、二人の間には壮絶なドラマがあることを、当時の多くの日本人なら知っていたからだろう。
高倉健と江利チエミは結婚12年で離婚するが、嫌いで別れたのではない。
長い間、音信のなかったチエミの異父姉が、その活躍を知ってお手伝いとして入り込むと、チエミと高倉の仲を裂くために嘘を吹聴して画策する一方、チエミの実印をつかって闇金業者から数億円を借金。その累が夫の高倉に及ぶのを恐れたチエミは自分から離婚を申し入れた。嫌いだから別れたのではない、好きだから別れたのである。
おそらく高倉健もまた嫌いになったからではなく、好きだからこそ、彼女の気持ちをくんで別れに応じたのではないか。それは、高倉健が演じてきた任侠映画を地でいくような、「義理と人情」をはかりにかけた末の「麗しき離縁のシーン」なのではないか。
高倉健ファンならきっとそう解釈したはずである。
しかし、それはファンの“あらまほしき推測”ではなく、実際にもそうであったと考えられる。
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