2022年04月04日
天皇、皇后両陛下の長女愛子さまの記者会見が、絶賛されている。3月17日、成年皇族として臨んだ初めての会見。その素晴らしさを、例えば共同通信「47NEWS」はこんな見出しで伝えた。
<感受性と文才、東大も狙えた愛子さまの「資質」 15年見続けた記者、圧巻の会見に抱いた深い感慨>(2022年3月30日)
執筆した大木賢一記者は2006年から宮内庁を担当したそうで、リードにこう書いている。
<穏やかでにこやかな話しぶりと、あらゆる人々に心を配る言葉の選び方、そしてにじみ出る気品に、15年以上愛子さまを見続けてきた記者として、深い感慨を持った。「これほど立派な大人の女性に成長されたのか」というのが率直な気持ちだ。幼少の頃「決して笑わない」とも言われた女の子が、ここまで見事な会見を実現させるに至った道のりを思わずにいられない>
06年、皇太子ご一家(当時)はオランダを訪問した。ベアトリックス女王の隣で愛子さまがはしゃいで笑う写真が、公表された。「珍しい」とニュースになった。だから大木氏の感慨は、多くの国民が共有するものだろう。
個人的に一番印象に残ったのは、小室眞子さんについて愛子さまがたくさん話したことだった。具体的な思い出を重ね、最後にこう述べた。「幼い頃から、いつも変わらず明るく、優しく接していただいたことを有り難く思うとともに、従姉妹として、末永いお幸せをお祈りしております」。眞子さんへのエールだと思った。
秋篠宮家=バッシングし放題。昨今の皇室をめぐる状況だ。悠仁さまの中学の卒業式が愛子さまの会見と同じ日だったことさえ、一部では秋篠宮家叩きの材料となった。だからだろう、西村泰彦宮内庁長官は3月24日の定例会見で、「ちょっと私のミスというか。別な日がよかったかなと個人的には思う」と語った。
問題の深刻さが表れている。だから愛子さまの眞子さんへの言葉はエールであると同時に、秋篠宮家叩きと一線を画す意志の表明だとも感じた。愛子さま、りりしい。
そして、ここからは「語られなかったこと」について書く。何かというと、皇室制度だ。
皇室は今、多くの問題を抱えている。はっきりしているのが、人数の減少。眞子さんが皇室を離れ、現在17人。うち40歳以下は6人で女性が5人。皇室典範で、女性皇族は「天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」と決まっている。喫緊の課題だから、政府の有識者会議(座長=清家篤・元慶應義塾長)も作られた。が、21年末に出された結論は、女性皇族が婚姻後も皇室にとどまる(女性宮家)案と、旧宮家の男系男子が養子として皇族に復帰する案の両論併記。どうもすっきりしない。
もう一つ、皇位継承権の問題がある。「男系男子」に限定しているが、再考しなくていいのか。小泉政権は「女性・女系天皇」容認に踏み込んだが、悠仁さまの誕生で立ち消えとなった。つまり、天皇家が続く道は「悠仁さま結婚→男子誕生」しかないが、それでよいのだろうか。有識者会議は、ここには触れていない。国論を二分する議論になるからだと解説されているが、実態は一部の保守派の強い反対への配慮だろう。なぜなら「国論」は「女性天皇」に賛成。メディアの世論調査からは、そうなる。
近いところでは、毎日新聞が22年2月に公表した世論調査「日本の世論2021」(埼玉大学との共同調査)の結果がそうだ。「男子がいない場合のみ、女子の継承を認めるべきだ」(41%)という回答と、「男女にかかわらず、天皇の第1子の継承を優先すべきだ」(35%)という回答を合わせると計76%。8割近くが「女性天皇容認」。「男子の継承を維持すべきだ」は10%だった。共同通信社が20年4月に公表した世論調査でも、女性天皇を認めることに「賛成」「どちらかといえば賛成」が計85%、女系天皇も79%が賛成の意向を示した。
大木記者も、記事中でこう書いている。
<各種世論調査で、「女性天皇容認論」はおよそ8割程度を占める。今回の会見を受け、「愛子天皇」を求める声がさらに高まる可能性はある>
だが、それなのに、愛子さまの会見では、これらの話題が一切触れられなかった。憲法に「天皇は、国政に関する権能を有しない」と定められているから、答えにくい問題だとは思う。が、とは言え、愛子さまは当事者だ。当事者に聞かないでどうする? 元新聞記者ゆえ、心の中の「鬼デスク」がそう叫ぶ。それに過去には黒田清子さんしかり、眞子さんしかり、女性皇族に現行制度に対する考えを尋ねた例はある。
直近では19年3月、佳子さまが国際基督教大学を卒業するにあたっても聞いている。文書でのやりとりだが、宮内記者会はこう尋ねた。「まもなく皇位継承が行われます。(略)新天皇皇后となられる、皇太子ご夫妻へのお気持ちとともに、皇族の減少など皇室の抱える課題についてのお考えもあわせてお聞かせください」。
佳子さまの回答はこうだった。「私は大学を卒業し、皇族の一員としての活動が以前より多くなってまいりますので、そのような中で、少しでもお二方のお役に立つことができれば誠に嬉しく思います。皇族の減少などの課題につきましては、制度のこととも関係しますので、回答は控えたいと思います」。
結論はやはり、「制度のことは答えない」だった。愛子さまもきっとそうなっただろう。だが、それでも聞いた方がよかったと思う。皇室の問題を考えるのは、最終的には国民だ。となれば注目される会見で制度のことを聞くことが、問題提起になると思うのだ。
宮内記者会も、それは承知だろう。それでも聞かなかったのは、
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