江戸絵画の魅力を様々な角度から紹介している府中市美術館(東京都)に「ふつうの系譜」展が帰ってきました。2020年春、コロナ禍のため途中で幕を下ろさざるを得なかった展覧会が2年の時を経て、再び開幕したのです(2022年5月8日まで)。
いったん終了した展覧会が、同じ形で開かれるのは異例のことです。企画展では、テーマに沿った作品をいくつもの美術館、博物館や個人、社寺などから借りて構成するケースが多く、もとの所有者に返却した作品をもう一度集め直すのは、極めて難しいからです。しかし、「ふつうの系譜」は、出品作のほとんどが敦賀市立博物館(福井県)の収蔵品で、同館の全面的な協力が得られたことにより実現しました。
「ふつうの系譜」展について「論座」では、開幕直前の2020年2月に担当学芸員の金子信久さんに、この展覧会の魅力を伝える原稿を寄せていただきました。作品群とどう向き合ったか、「ふつう」ではない手間を掛けた図録製作の裏側などを紹介した原稿を、もう一度掲載します(原稿は一部更新・編集しました)。展示の名品を紹介した連載「疲れた心にきれいな絵を」もあわせてお楽しみください。(編集部)
春の府中で江戸絵画を楽しむ
毎年春に府中市美術館で開催してきた江戸絵画の展覧会は、2019年の「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」で15回目。ありがたいことに、毎回来てくださる方もいるし、2012年から冠するようになった「春の江戸絵画まつり」というシリーズ名を覚えてくださっている方も大勢いて、企画担当者としては、ただただ嬉しい。

2022年「ふつうの系譜」展ポスター
さて、16回目 となる2020年のテーマは「ふつうの系譜」。もちろん、美術史家、辻惟雄(つじ・のぶお)氏の著作『奇想の系譜』や、この本をもとに、19年、東京都美術館で開催された「奇想の系譜展」に引っ掛けて付けさせていただいたタイトルである。
サブタイトルは、〈「奇想」があるなら「ふつう」もあります―京の絵画と敦賀コレクション〉。メインタイトルと合わせると、ひと昔前の2時間ドラマ並みの長さだが、もちろん、それを狙ったわけではない。「ふつうの系譜」だけでは何のことだかわからないと思い、必要な説明を付けたら、長くなってしまったのである。
ネットの反応や、色々なやりとりから感じるのは、このおかしなタイトルが、やや一人歩きしているかもしれない、ということである。これは少し不安である。タイトルのウケの良さだけに頼らずに、展覧会で見てほしいこと、考えてほしいことを、自分の中でもう一度、落ち着いて確認する必要があるようだ。
そこで、この機会に、私自身が出発点に戻るつもりで、展覧会のここまでを振り返ってみることにした。
連載「疲れた心にきれいな絵を」
府中市美術館「ふつうの系譜」展から
①「もふもふ」動物を愛でる

浮田一蕙「隅田川図」(部分)=敦賀市立博物館蔵、2022年は前期展示
②典雅な「やまと絵」、土佐派の魅力
③細やかな春景色に憩う
④安らかさの象徴、鶉になごむ
⑤思い思いに虎いろいろ
⑥古典文学を生き生きと
⑦不老不死のめでたさに祈る