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お寺を解散するという選択──過疎地のお寺はもう限界

[16]難しい法的手続き、財産処理、檀家の移籍

薄井秀夫 (株)寺院デザイン代表取締役

お寺を解散するということ

 2020(令和2)年11月、住職不在で宗教活動を行っていなかった島根県大田市の浄土宗金皇寺(こんこうじ)が、宗教法人を解散させ、引き取り手のない不動産を国庫帰属させる手続きをすすめているとの新聞報道があった(朝日新聞デジタル、2020年11月27日)。

 活動していなかったお寺が、法人を解散させ、所有していた土地を国庫に納めたということである。活動していない法人が解散するのは当然であるし、所有していた土地を国に納めたということも、当たり前のように見える。新聞で報道されるほどのニュースには見えないだろう。

 しかしこれは、宗教法人法が1951(昭和26)年に施行されて以来、初めての事案であるという。そして、現代の仏教界が抱える深刻な問題が、象徴的に集約されたニュースでもあった。

=2020年8月、島根県大田市ひさしが朽ち果て、草や木に覆われた金皇寺(浄土宗)=2020年8月、島根県大田市

 まずは、この経過をたどってみる。

 金皇寺のある場所は、過疎化が進む地域であり、もともと少ない檀家が過疎化によってさらに減少していた。

 そんな中、2013(平成25)年に当時の住職が死亡し、後継者不在の状況となる。経済的に行き詰まっていた上に、後継者がいなくなり、お寺が「空き家」となってしまったのである。

 翌年、金皇寺が属する浄土宗が現地訪問・調査し、地元関係者と話し合いの結果、宗教法人を解散、もしくは他の宗教法人に吸収合併をさせることで一致したという。

 ところがここで障害にぶつかることになる。解散するにせよ、合併するにせよ、金皇寺の所有している財産の引き取り手が無かったのである。

 財産は主に二つ。ひとつは、12万4221㎡の土地。東京ドーム2.6個分だという。これは本堂などが建っている境内地を除いて、ほとんどが山林である。

 もうひとつは、本堂・山門・鐘楼などの建物や墓石である。

 宗教法人法には、以下の条文がある。

(残余財産の処分)
第五十条 解散した宗教法人の残余財産の処分は、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除くほか、規則で定めるところによる。
2 前項の場合において、規則にその定がないときは、他の宗教団体又は公益事業のためにその財産を処分することができる。
3 前二項の規定により処分されない財産は、国庫に帰属する。

 つまり、第一に宗教法人の規則で定めた財産の処分先が残余財産の帰属先であり、その定めの無い時は、他の宗教団体か何かしらの公益事業に、それでも処分ができない場合は、国庫に納めるとされているのだ。法人の解散で生じた残余財産は、引き取り手がいなければ、自動的に国庫に納められるかのように読めなくもない。

引き取り手の無い残余財産

 しかしこの金皇寺の場合、この不動産の帰属先を見つけることが、なかなかできなかったのである。

 まず解散にあたって浄土宗は、近隣寺院や自治体、森林組合等に残余財産の帰属を打診したが、どこからもいい返事を得ることはできなかった。残余財産を引き取ってくれないということは、当然合併という選択肢も無い。

 解散することは決定していたが、財産の帰属先が見つからず、その後5年間、何の進展もないという状況が続く。

 これが都市部の資産価値の高い土地であったら、すぐに帰属先が見つかったはずである。ところが過疎地域の土地は資産価値が低い。かつて山林は、資産価値の高い財産であったが、現代では管理コストを考えると、むしろマイナスの財産ととらえられることが多い。

=2020年8月、島根県大田市金皇寺が所有していた山林=2020年8月、島根県大田市
 宗教法人法によれば、引き取り手がなかったら国庫に帰属するとあるが、実は国もそう簡単に引き取ってくれない。やはり資産価値が低い土地は、引き取りたくないのである。

 この法律自体、山林などの土地に資産価値がある時代の法律であり、当時であれば山林は、引く手あまたであったはずだ。しかし現代では、森林組合ですら引き取ることを躊躇する財産なのである。

 こうして、金皇寺の解散問題は停滞していたのであるが、公益財団法人全日本仏教会が協力することで、この事案が再び動き始める。

 2018(平成30)年に全日本仏教会の戸松義晴・事務総長(当時)が、中国財務局松江財務事務所に連絡をとり、金皇寺の残余財産の帰属先について協議をしたい旨を伝え、それがきっかけで、財務局との協議が一気に進み始めたのである。

 協議の結果、境内にある墓石の整理や山門・鐘楼などの解体を行うことを条件に、国庫帰属が決まる。山門等の解体費用約100万円は、浄土宗が拠出した。また本堂は、老巧化しているものの、朽ちても近隣に影響が少ないことから、そのままの状態で国庫帰属が認められた。

 宗教法人の解散は2020(令和2)年に承認され、財産の国庫帰属は最終的に昨年10月に手続きが終わった。

住職のいないお寺

 今回、金皇寺が解散せざるを得ない状況になったのは、直接的には、住職の後継者不在であるが、背景には過疎問題がある。このお寺は、過疎化が進む中、経済的にも困窮していた。もし経済的に安定していれば、後継者のなり手はいただろう。

 人口の都市部への集中が進む中、地方では、活動できないお寺も増えている。

 文化庁によると、2020(令和2)年の時点で、約18万の宗教法人のうち不活動法人が3394法人あるという。また金皇寺が属する浄土宗によると、約7000ヵ寺の全浄土宗寺院のうち、長期無住職寺院が80ヵ寺あるという(文化庁『宗務時報』125号)。

 おそらくこれは氷山の一角に過ぎず、活動が停滞し、経営が行き詰まっているお寺は、さらに多い。お寺で得られる収入では活動できないので、住職が

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