大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター
演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
カナダ発の心理スリラー『エレファント・ソング』で舞台初主演
井之脇海が『エレファント・ソング』で舞台初主演を果たす。
本作は2002年、カナダの作家 ニコラス・ビヨンによって書かれた心理スリラーで、モントリオール、ロンドン、ニューヨーク、ソウルなど世界でも上演されている。
突然失踪したローレンス医師の所在を知るために、彼が担当していた患者のマイケルとの対話を試みる病院長・グリーンバーグ。真偽の分からない会話や、象についての意味のない無駄話に拘る患者・マイケルと、彼の言葉に翻弄され続けるグリーンバーグとの、診察室で繰り広げられる心理戦。驚くべき結末に 向けて、緊張感あふれる会話劇が展開する。舞台に登場するのはマイケル(井之脇)、グリーンバーグ(寺脇康文)、看護師のミス・ピーターソン(ほりすみこ)のみという3人芝居で、演出は宮田慶子が担う。
井之脇海は子役としてキャリアをスタートし、近年はドラマ・映画などの話題の映像作品で引く手あまたの活躍を見せる。昨年『ミュジコフィリア』で長編映画初主演した井之脇が満を持して、舞台初主演に臨む。井之脇に意気込みを聞いた。
――井之脇さんは公式コメントで「戯曲を読んで、直感的『マイケルを演じるのは僕だ』と強く思いました」とおっしゃっていますが、なぜこの言葉が出てきたのでしょうか。
映画版でグザヴィエ・ドラン氏が「マイケルは僕だ」とおっしゃっていて、それは、ドラン自身が背負っている家庭の問題などともリンクしての発言だと思いますが、僕はどちらかというと、「マイケルというキャラクターを僕が演じたい」という気持ちですね。今まで十数年役者をやってきましたが、「この役は僕以外にやらせたくない」とはあまり思ったことがなくて。でも今回『エレファント・ソング』の台本を読んで、初めて感じました。というのも、マイケルというキャラクターが根幹に強く持っている「人から愛されたい」という思い、もっと言えば、「自分という存在は何なんだろう」という思いに共感できる部分があって。マイケルを演じながら僕自身も(自分という存在を)一緒に探していきたいという思いがあります。
――マイケルという人物に対しては親しみを持っている? それとも演じるのは難しそうだなと感じている?
演じるからにはマイケルのことを僕が一番理解しようと思っているので、そういう意味では親しみがあります。彼はトリッキーな言動をしたり、人を攻撃したりするところがありますが、その裏に何があるかを考えたい。親しみというか、マイケルを理解して寄り添って演じてあげられたらなと思います。
――マイケルと似ている部分はありますか。
似ている部分はこれから稽古を通じて探していくことになるんだと思います。人間って誰しも人から愛されたいという思いを持っている。僕が当たり前だと思っている愛情を、マイケルは手に入れられなかった。そういう意味では似ていないんですけど、マイケルの気持ちはわかってあげられると思うし、これからどんどん似ている部分を探して増やしていけたらと思います。
――今回が舞台初主演ですね。
舞台自体は3年ぶり。昨年長編映画初主演作が公開されたタイミングで、この戯曲でマイケルという役で主演できるのは嬉しいと同時に挑戦になるなと思っています。
ここ数年、どの役でもそうですが芝居で悩んだり苦しかったりして、僕なりの芝居を常に模索してきました。映像の現場ではワンカットが長くても数分で、演じた後は素の自分に戻って思考を整理するんですが、今回は上演時間中ずっと舞台上に立ち続けるという体験をするんです。僕の芝居としても成長できる何かが見つけられるんじゃないかという期待を込めて、自分では「挑戦」ととらえています。
――台詞の量も膨大ですが、いかがでしょうか?
本当に多いんですよ(笑)。でも、濃密な会話劇で主演を迎えられるのは、自分が望んでいたこと。その中で自分に何ができるのか、マイケルをどこまで深いところでつかめるか探していきたいですね。
――舞台に出演する面白さは?
ステージに上がって、役というものを止めることなく、上演時間中演じ続けるということは、とても魅力的というか。稽古をたくさん重ねてきたとしても、同じ戯曲で同じ動きでも、些細な変化によって気持ち的にどんどん違う方向に向かっていくこともあるんだろうなと思って。そういう変化を毎公演毎公演、体感できることはとても楽しそうだし、勉強になることも多いだろうなと思います。
――本読み稽古がスタートしたとのことですが、これからどのような稽古になりそうですか。
一人で台本を読んでいるときは想像に過ぎなかったけれど、実際に寺脇(康文)さんとほり(すみこ)さんの身体と喉を通して発せられた台詞は僕の想像のはるか上をいっていて。台詞や会話の流れが予想と全然違う角度から来ていたりして、ぼんやりしていたものがはっきり輪郭を帯びて現れたなという実感があります。本読みの段階から熱い思いを交換することができたので、これは稽古を重ねて立ち稽古になってどんどん濃いものが溢れていくんじゃないかなと思って、ワクワクしていますね。
◆公演情報◆
PARCO PRODUCE 2022 『エレファント・ソング』
東京:2022年5月4日(水・祝)〜22日(日) PARCO 劇場
愛知:2022年5月25日(水) 刈谷市総合文化センターアイリス 大ホール
大阪:2022年5月28日(土) COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
公式ホームページ
[スタッフ]
作:ニコラス・ビヨン
翻訳:吉原豊司
演出:宮田慶子
[出演]
井之脇海、寺脇康文、ほりすみこ
〈井之脇海プロフィル〉
2008年、映画『トウキョウソナタ』で第82回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第23回高崎映画祭最優秀新人俳優賞を受賞。2018年、自身の初監督作品で脚本・主演も務めた映画『3Words 言葉のいらない愛』が第68回カンヌ映画祭ショートフィルムコーナー部門で入賞。近年の主な出演作として、『ちむどんどん』、『津田梅子~お札になった留学生~』、『義母と娘のブルース』(以上、テレビ)、『とんび』、『猫は逃げた』、『ONODA 一万夜を越えて』、『ミュジコフィリア』(以上、映画)などがある。
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