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横断歩道は「人道回廊」である~運転者に対し子どもに深々とお辞儀させるな

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

横断歩道は「人道回廊」である

 だが、横断歩道前で停まるクルマに対し小学生に深々と頭を下げさせることは、人道回廊を必要とする避難民に、ロシアへ感謝の念を示せと言うようなものである。回廊を十全に機能させることは、侵略者といえども守るべき責務なのであって、侵略者側の恩恵などではない。

 それと同じことを、運転者と子どもとの関係についても言わなければならない。

maroke拡大maroke/Shutterstock.com

 横断歩道は不可欠の人道回廊である。前記のように両者の関係は一方的であり、横断歩道がなければ子どもたちは自らの命を守ることができない。だから運転者にとって、横断歩道を安全に保つのは、ゆるがせにできない義務である。

 もちろん、ウクライナ危機ではロシアの侵略の事実がそもそも問われなければならない。それと同様に、子どもの生活環境を一変させてしまった運転者の側の、いわば子どもの領分への侵犯が問題化されるべきだが、今はそこまでは議論をひろげない。

 ただ現今の状況を思えば、子どもの安全を保障すべく、運転者に運転者としての最も基本的な義務を自覚させることが重要なのであって、行って当然の行為に対して、被害者でしかありえない弱者に感謝の念を示させることなど、論外だと言わなければならない。

 なるほど子どもであろうと、示された親切に感謝の念を抱くことはあろうし、それを形にするのは自然であるばかりか、世の中を住みやすくするのに大事な作法でもある。だが、

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筆者

杉田聡

杉田聡(すぎた・さとし) 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

1953年生まれ。帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)。著書に、『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)、『逃げられない性犯罪被害者——無謀な最高裁判決』(編著、青弓社)、『レイプの政治学——レイプ神話と「性=人格原則」』(明石書店)、『AV神話——アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店)、『男権主義的セクシュアリティ——ポルノ・買売春擁護論批判』(青木書店)、『天は人の下に人を造る——「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)、『カント哲学と現代——疎外・啓蒙・正義・環境・ジェンダー』(行路社)、『「3・11」後の技術と人間——技術的理性への問い』(世界思想社)、『「買い物難民」をなくせ!——消える商店街、孤立する高齢者』(中公新書ラクレ)、など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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