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沖縄を語るキーワード

 一つの時代からある世代の文化が生まれるのか、それとも一つの世代がある時代の文化をつくるのか──このニワトリとタマゴの問題はなかなか難しいが、私はぎりぎりのところで世代先行の方に加担したい。

 なぜなら、「全共闘世代」の前に全共闘文化はないし、「オタク第一世代」の前にオタク文化は存在しなかったはずだからだ。

 1960年代の学生が、眼前の小さな疑義を起点に国家権力の企みを告発しなければ、党派を必要としない運動の文化は出現しなかった。また、アニメのマニアが、作者さえ意図していない物語の背景を空想しなければ、権威を求めない趣味の文化は登場しなかった……。

 とやや声高なイントロダクションで今回紹介するのは、1989年8月に刊行された『事典版 おきなわキーワードコラムブック』(まぶい組編、沖縄出版)という出版物である。

『事典版  おきなわキーワードコラムブック』(まぶい組編、沖縄出版)拡大まぶい組編『事典版  おきなわキーワードコラムブック』(沖縄出版)
 同書は、「沖縄に住むいろいろな人」が持つ「それぞれの『沖縄のイメージ』」を「おきなわキーワード」と命名してランダムに書き出してもらい、事典形式にまとめ上げるという試みだった(編者によれば、『大阪呑気大事典』という先行者はあったらしい)。

 ただ「いろいろな人」とはいうものの、「一九六〇年代から一九八〇年代に生まれた、もしくは青春を迎えた人々に捧げる」書物であるため、「項目に年代的な偏りがある」こと、書き手に「地域的な偏りが若干ある」ことを認めてほしいということわりが付いていた。

 つまり同書は、最初から“沖縄の同世代による沖縄像の発見”という明確な目的を持っており、その確信犯的な戦略によって編まれたと考えて良いだろう。

 結果からいえば、『事典版 おきなわキーワードコラムブック』は話題の本になった。『沖縄タイムス』に連載された喜納(きな)えりかのコラム「沖縄県産本のあゆみ」によれば、「若者たちが同時代的な沖縄を活写したこのショートコラム集は、キーワードの立て方や文章のクオリティーも相まって社会現象ともいえる大ヒットを巻き起こした」のである(「充実期の1980年代、おきなわキーワードコラムブックと沖縄大百科事典」2015年11月12日)。

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筆者

菊地史彦

菊地史彦(きくち・ふみひこ) ケイズワーク代表取締役、東京経済大学大学院(コミュニケーション研究科)講師

1952年、東京生まれ。76年、慶應義塾大学文学部卒業。同年、筑摩書房入社。89年、同社を退社。編集工学研究所などを経て、99年、ケイズワークを設立。企業の組織・コミュニケーション課題などのコンサルティングを行なうとともに、戦後史を中心に、<社会意識>の変容を考察している。現在、株式会社ケイズワーク代表取締役、東京経済大学大学院(コミュニケーション研究科)講師、国際大学グローバル・コミュニケーションセンター客員研究員。著書に『「若者」の時代』(トランスビュー、2015)、『「幸せ」の戦後史』(トランスビュー、2013)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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