高校演劇「春フェス」報告【下】
2022年05月03日
劇作家の工藤千夏さんによる高校演劇「春フェス」(春季全国高等学校演劇研究大会、2022年3月に大阪で開催)報告の後編です。ジェンダー、メディア、ディストピア……鋭いテーマが並びます。
大阪府立東住吉高校▽大阪・精華高校▽福島県立あさか開成高校▽札幌市立札幌啓北商業高校▽山梨県立身延高校の作品を紹介した【上】はこちら。
学校生活における問題に苦悩し、友情のために行動を起こす。そんな熱い高校演劇の醍醐味を満喫できる3本は、2021年度に誕生したオリジナルの創作脚本だ。
栃木県の作新学院高校『Passion』(作:高梨辰也 顧問創作)は、ジェンダーギャップへの気づきのドラマである。
昨年の春フェス北九州大会で上演された『見えない女子の悩み』(上演:東京都立千早高等学校演劇部 原案:森岡水蓮 脚本:木原幸乃・松原琴音・神田朱 生徒創作)や、全国大会(和歌山)での立川女子高校『おんなのこのひ』(作:立川女子高校演劇部 生徒+顧問創作)、同校がこの1月の関東大会で上演した『明日きれいさっぱり忘れてくれるって言うから君が』(作:立川女子高校演劇部 生徒創作)と比べて、登場人物の意識、特に男子の男女格差への気づきは幼く、正直ちょっと物足りなくも感じる。だが、この無自覚さもまたリアルなのである。
作品の中で簡単に提示できる答えなどない。高校生の身の回りに歴然と存在するジェンダーギャップを考え始める等身大の芝居は、気づきの扉をバーンと開け放つために必要な一歩である。
山口県立光丘・光高校『陰影』(作:緋岡篝 顧問創作)は、あるヤングケアラーが介護していた祖母を殺した事件を知り、ショックを受けた部員の提案で創作が始まったという。
友に寄り添うということはどういうことなのか、その答えは簡単には出ない。夢を持つことも、他者を励ますことも、いずれもたやすいことではない。それでも、なぜ救えなかったのか、自分には本当に何もできなかったのか考え続けることが枢要であると、この作品は伝えてくれる。
ところで、出場校として二つの学校が名を連ねていることに、お気づきだろうか。令和2年度の山口県の県立高校再編整備により、山口県立光丘高校は2022年3月に閉校、山口県立光高校に統合されることが決まっていたため、2020年から演劇部の活動を一緒に行って来たのだという。3月末のこの春フェスが、光丘・光高校演劇部という連名での活動の最後となった。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください