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小豆島・農村舞台で木ノ下歌舞伎に参加する

瀬戸内国際芸術祭、多分野パフォーマーと海の物語を作る

玉川奈々福 浪曲師

激務乗りこえ、「いい湯だな」

 〽ばばんばばんばんばん……♪

 5月5日、子供の日の夜。

 奈々福は、小豆島天然温泉「塩の湯」に浸かっております。

 ほんとに塩味だ。これ、温泉じゃなくて海水じゃないのかという感じです。

 ふわああ……ほどけるぅぅぅ。顔も体も心もゆるむぅぅぅ。

 ご褒美だなあ、先月は死にそうだったから。

 嗚呼、天国……。

 日々、芸にだけ邁進埋没できたなら……と常々思うのですが、フリーランスの芸人というのは、会社に例えていうならば、総務部と経理部と企画開発室とぜんぶ一人でやらなくちゃならないわけで、それがたまたまいろいろ重なってしまうと、なかなか大変になりまして、それに大きな独演会が重なった4月は、よくぞ生きて乗り越えられた……という感じでした。

 一段落したところで、私は「仕事で」小豆島に来ました。

小豆島「肥土山農村舞台」の入り口=香川県土庄町
 瀬戸内国際芸術祭は、3年に1度、瀬戸内海の島々で開催されるアートの祭典です。その祭典で開催されるイベントに、お声がけいただきました。

 歌舞伎演目の現代劇化を試みる劇団「木ノ下歌舞伎」の主宰・木ノ下裕一さんから、この芸術祭で上演するオリジナル舞台に、語りで参加してもらえないかというお誘い。

 「木ノ下歌舞伎」ファンで、木ノ下裕一さんの凄さに常々驚いていた奈々福、こんな願ってもないお話、断るわけがありません。

 しかも上演される場所が、小豆島の農村舞台という!!!

 この連載を読んでくださっている方々は、奈々福が農村舞台になみなみならぬ興味を持っていることは、知ってくださっているかと思います。しかも今回の劇場である「肥土山農村舞台」、以前私は、わざわざ訪ねたことさえあるのです。

小豆島の「肥土山農村舞台」。観客は手前の芝の上に座り、舞台(奥の建物)を見る=香川県土庄町
小豆島の「肥土山農村舞台」。舞台から見える観客が座る芝生=香川県土庄町

小豆島「肥土山農村舞台」の説明
 小豆島の山間部、緑と田んぼに囲まれた素晴らしいロケーションにある、農村舞台です。国の重要有形民俗文化財に指定されていて、保存会が活動してくださっているお蔭で、保存状態も大変いい。

 上演される作品は、今回の芸術祭のためのオリジナル作品で「竜宮鱗屑譚(せとうちうろくずものがたり)」というもの。出演者は、ダンサー、日本舞踊家、俳優。演出家は、ダンサー。音楽は、生演奏という……。

 お誘いいただいたものの、稽古に参加するまで、私がいったい何をするのか、わかりませんでした。

海の底に眠る物語を舞台に

 横浜のスタジオでの稽古初日。台本もなにもなかった。

 配られたのは、瀬戸内海についてのさまざまな資料……。

 瀬戸内海は物語の宝庫です。東は、いにしえ「難波津」と呼ばれた大阪の港、そこは遣唐使が出発し、また唐土からの船が到着する港だった。そして西の果ては、関門海峡、ここは壇ノ浦の戦いで平家が滅びた場所であり、宮本武蔵と佐々木小次郎が戦った古跡もある。本州、四国、九州に囲まれた、その日本最大の内海を舞台に、さまざまな歴史的な事件が起き、さまざまな伝承が生まれ、文学が生まれ、芸能が生まれた。

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