頼れるボランティアを「戦力」にするために必要なこと
2022年05月11日
2022年4月23日、山梨県道志村の山中で捜索ボランティアが子供の頭蓋骨の一部を発見し、その後警察による捜索で周囲から他の骨や様々な遺留品が見つかりました。2019年9月21日に行方不明になった小倉美咲さんのものという可能性もあるとして、現在も捜索が続いています。
骨が発見された場所は、美咲さんが行方不明になったキャンプ場から約600mしか離れておらず、当時、警察等がのべ約1700人を動員して捜索した範囲内であるとされています。
そのため、「あれだけ探して見つからなかったのに、なぜ今頃になって骨や遺留品が見つかるのか」という謎が生じる不可解な事件のため、インターネット上では様々な憶測が飛び交っています。
Yahoo!のコメントの中には、「発見したボランティアが怪しい」と誘拐犯扱いをする誹謗中傷も目立ちました。行方不明から約2年7カ月が経過してもなお、善意で捜索した人を何の証拠もなく疑うなど言語道断です。
そもそも、警察や消防等よりも先にボランティアが発見する事例は珍しいことではありません。最も有名なのは、「スーパーボランティア」と呼ばれている大分県の尾畠春夫氏が、2018年8月に山口県周防大島町で行方不明になった当時2歳の男児を発見した事例でしょう。のべ600人の捜索隊が2日半かけて発見できない中で、尾畠氏はわずか約30分で男児を見つける快挙を成し遂げました。
それだけではありません。2016年12月、大分県佐伯市で2歳の女児が行方不明になったケース(西日本新聞、2016年12月7日付)でも、ボランティアが警察等の捜索区域外の山道を登って女児を発見しています。
また、2021年10月、岐阜県岐阜市の百々ヶ峰(どどがみね)で6歳の男児が行方不明になった際、報道を見て駆けつけた登山グループの6人が夜間も捜索を続けて、無事発見した事例(岐阜新聞、2021年10月28日付)もありました。
さらに、山梨県道志村の件と同様、捜索の打ち切り後にボランティアが発見した事例もあります。2020年10月、富山県在住50代の男性が、石川県の白山で遭難死したケースです。遭難者と当日朝すれ違った京都市の男性が、捜索打ち切りのニュースを聞き、再び現地に戻って捜索をしたところ、遭難者の遺体を発見しました。
一般的には、プロである警察等に比べてアマチュアであるボランティアの捜索能力は劣ると思われていますが、このように、彼らの捜索能力も侮ることはできません。その理由は、主に以下のような要素が考えられます。
(1)捜索における不確実性の高さ
日頃の訓練の積み重ねが活きる「救助」と異なり、「捜索」は不確実性が高く、訓練した者のほうが結果を出せるとは必ずしも限らない。そのため救助では「戦力」になり得なくとも、捜索の場合は素人でも活躍できる余地が十分にある。
(2)機動性の高さ
警察や消防は様々な場面を想定した救助の訓練をしている一方で、ボランティアに参加する登山経験者や猟師等の一部は、山での体づくりや地形の読み取りに特化している。それゆえ、「山中を機動的に動く」というスキルが、平均的な警察・消防関係者より高い人もいる。
(3)単独行動のメリット
・現場の状況(地形等)にあわせた臨機応変な判断が可能であり、山に慣れていれば、効率的に動くことができる場合がある。
・行動計画を立てるリーダーの判断ミスや予断、思い込みが全体に影響を及ぼすという、団体行動にありがちなデメリットが無い。
(4)時間外・期間外の捜索が可能
・警察、消防等の山中での捜索は、基本的にリスクの低い日中のみの行動が多いのに対して、夜間や早朝に行動をすれば、効率は落ちるものの長時間の捜索が可能になる。
・警察・消防等の捜索は期間が限定されていることが多いのに対して、執念があればその終了後も個人的に捜索できる。
ちなみに、ボランティアが活躍した背景には、警察側のミスがあったように思われる場合もあります。たとえば、周防大島町のケースでは、当時のテレビ中継を見たところ、捜索隊が長い棒で水の中をつついていました。つまり、生きている可能性に加えて、男児が既に亡くなっている前提での捜索も同時に行っていたのです。
これは間違ったリソースの分散ではないでしょうか。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください