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五感を揺さぶる朗読劇 スペクタクルリーディング『バイオーム』制作発表会見レポート!

人と植物が織りなす一つも美しくない物語

橘涼香 演劇ライター


 歌舞伎界のサラブレッドとして活躍しつつ、歌舞伎にとどまらない様々なチャレンジを続ける主演の中村勘九郎をはじめとした演劇界を牽引する俳優たちが集い、宝塚歌劇団で気鋭の作・演出家として活躍した上田久美子書き下ろしの戯曲を、『麒麟がくる』『精霊の守り人』など多くの話題作を手掛ける一色隆司演出で上演するスペクタクルリーディング『バイオーム』が、6月8日~12日東京建物Brillia HALLで上演される。

 『バイオーム』は梅田芸術劇場が生み出す、代々続く政治家一族と、その館の庭の樹木や植物たちが織り成す、全く新しい進化型エンターテインメントだ。

 「わたしを“けもの”と呼ぶのは誰か わたしを“にんげん”と呼ぶのは誰か それは事実か真実か虚構か嘘か、庭先で語られる一つも美しくない物語」

 フライヤーに書かれたこの短い一節だけで、108年間大きく括れば愛と美を綴ってきた宝塚歌劇団を退団したばかりの上田久美子が、宝塚では決して描けなかっただろう「一つも美しくない物語」をどう紡ぎ、演出の一色と錚々たるキャストがどう表出してくるのかに、大きな期待が膨らんでくる。

 そんな作品の制作発表会見が都内で開かれ、脚本の上田久美子、演出の一色隆司、キャストの中村勘九郎、花總まり、古川雄大、野添義弘、安藤聖、成河、麻実れいが登壇。公演への抱負を語った。

スペクタクルリーディングが何かはまだ誰にもわからない

『バイオーム』制作発表会見 から=森好弘 撮影拡大『バイオーム』制作発表会見 から=森好弘 撮影

【登壇者挨拶】

脚本・上田久美子:今回、宝塚歌劇団以外での脚本を初めて書かせていただきます。お題は何を書いてもいいということだったので、今の社会や世界から自分が受け取ったもの、自分を通して出てくるものを即興的に形にしたいなと思って書かせていただきました。それが植物たちの世界と人間の世界が2層に重なっている、ちょっと不思議な作品になってしまいまして。良く言えば不思議なのですが悪く言えば変な感じの作品でもあるので(笑)、「本当にこれでやっていただけるのでしょうか?」という気持ちでしたが、やっていただけるということでよかったです。大胆なことだなと思ってもおります。この挑戦が、素敵な作品に仕上がることを期待しています。

演出・一色隆司:とてつもない台本を上田先生からいただいて、開いてみて「どうしよう」と思ったのですが(笑)、本当に奥が深くて人物造形もしっかりしていて、しかも人間のドラマがそこにあり、地球を感じるようなスケール感がある作品です。本当にすばらしいキャストの皆さんに集まっていただけてワクワクドキドキ、何ができるかという期待と高揚感でいっぱいです。

中村勘九郎(代々続く政治家一族の一人息子ルイと、ルイの家で働く家政婦ふきの孫娘ケイの2役):脚本の上田さん、演出の一色さんのもと本当に豪華な皆さまとご一緒できるだけで幸せですし、ワクワクしております。脚本を読ませていただいただけでは、完成形がどうなるかまだ全然わからないのですが、それはそれで本当に楽しみなことで、稽古をして良い作品を皆さまに届けられたら幸せに思います。

花總まり(精神的に不安定な部分がある一族の一人娘でルイの母親の怜子と、クロマツの芽の2役):今回、また私にとって新たなチャレンジになりそうな舞台ですので、非常にワクワクしつつ、少し緊張もしております。一生懸命頑張りたいと思います。

古川雄大(家政婦ふきの一人息子で、父の跡を継いで一家の庭師をしている野口とイングリッシュローズの2役):スペクタクルリーディングという新しい挑戦の機会に参加できて本当に幸せに思っています。そして、上田さん、一色さん、中村勘九郎さんはじめすてきなカンパニーの皆さんとご一緒できる、こんなに刺激的な機会はないと思っております。楽しみです。

野添義弘(一族の家長で、現在は引退して老獪に学をサポートしている元大臣克人とクロマツの盆栽の2役):本当にどういう作品になるかまだわからないのですが、おそらく、五感を揺さぶる今まで見たことのない舞台になるのではないのかということで、自分も楽しみに期待をしておりますし、すばらしい皆さまとご一緒できるのを幸せに思います。ぜひ劇場で、見たことのない舞台を一緒に体験していただけたらと思っております。

安藤聖(ルイの母、怜子の傾倒する花療法士ともえと、竜胆の2役):とっても豪華な皆さんとご一緒できて大変光栄に思っております。

成河(一族の婿養子で元官僚の学と、若い大木セコイアの2役):スペクタクルリーディングってなんだろうって皆さんも思っていると思うのですが、まだ誰もわからないんです(笑)。今日もそれを考えていたのですが、上田先生の書かれた脚本は生々しい人間ドラマと言いますか、とても現代的で、全員が被害者でもあるけれど少しずつ加害者でもある、ヒリヒリするような人間ドラマです。それをスペクタクルリーディングにする理由は何なのかと考えています。皆さん一堂に会するのは今日が初めてなのですが、僕は皆様に目くばせしながら「(セリフを)覚えませんか?」ということを言う係でいようと思います(笑)。楽しみにお待ちください。

麻実れい(ルイの一家に古くから仕える家政婦ふきと、樹齢200年近い大きなクロマツの2役):私は置かれた場所にあらがい生きていく、いわくありげな家政婦のふきと、植物のクロマツをさせていただきます。二つとも初めていただくお役です。頑張りたいと思います。みなさんとご一緒に楽しく、そして考えながら、そう、先はまだ全く見えませんけれど、これだけのメンバーが集まればいろんなアイデアが出て素敵な作品に仕上がると思いますので、お楽しみくださいませ。

 それぞれの個性がほとばしる挨拶に続いて、司会から、また集まった記者からの質問が続いた。

物語の括りとしてもなんだか知らなかったものだぞと

【質疑応答】

──朗読劇と今回のスペクタクルリーディングとの違いはなんですか?

『バイオーム』制作発表会見 から、演出・一色隆司=森好弘 撮影拡大『バイオーム』制作発表会見 から、演出・一色隆司=森好弘 撮影

一色:朗読劇って本を開いて皆さんに読み聞かせる、お母さんが子どもに読むようなイメージだと思うのですが、この台本はそんなところにはおさまらない。本を開くとその世界が目の前にどんどん広がっていく。本を飛び出して、気づくと自分のいる世界がその本の中に入ってしまう。そういうイメージや思いが、おそらく観てくださった方に届くような台本です。いつのまにかその本の中にいるような。そういう世界観が、スペクタクルなことではないかと思っていて。きっと観てくださっている方は、自分がそれぞれのキャラクターになったり、木々になったり、気が付けば双方を見下ろしている天空の上にいる何かになってみたり、多分、劇場の空気が最初とは違う色で感じていただけるのではないかと思います。

更には、自分が宇宙のなかのたったひとつの原子のような、構成要素のひとつだなと感じるような、ある種の浮遊感のようなものも感じていただける作品にしたいと思っております。それが実現したとき、皆さんにも今までの朗読劇では感じられない、普通の演劇からも感じられない思いを、心に宿しながら劇場を後にしていただけるのではと思います。それがスペクタクルリーディングと名付けた背景です。ちなみに(会見会場の後ろを指して)このストリングカーテンは劇場でも御覧いただけますが、重要な役割を果たす予定です。紐のように見えませんか?

──見えます。少しキラキラして……

一色:ここに映像が映ったり、色々なことが起こりつつ、舞台上の世界を客席に届けていくことをイメージしております。

『バイオーム』制作発表会見 から、脚本・上田久美子=森好弘 撮影拡大『バイオーム』制作発表会見 から、脚本・上田久美子=森好弘 撮影

──上田さん、脚本の見どころは?

上田:それは結構答えに困るのですが(笑)。台本としては、今までのカテゴリーで人間ドラマとかメロドラマなどにはまらないものにしたいと言いますか、最初からそう思っていたわけではないのですが、書いていくうちにそうなっていったというものです。逆に観に来ていただいた方が、スペクタクルリーディングという新しい舞台の形式と合わせて、物語の括りとしても「なんだか知らなかったものだぞ」ということを感じ取って、持ち帰っていただけたらなと思います。

──ご自身の脚本をほかの方が演出されるのは初めてということですが。

上田:すごくワクワクしています。一色さんが語ってくださっている「こういう風にしようかな」とか「こういうことですか?」というものに自分が思っていた以上のことがあって。自分の脚本にほかの人の考えが加わって、世界が広がっていくという経験を今までさせていただいたことがなかったので、とても楽しみにしています。

日本古来種と西洋の植物が混じってよくわからない庭園が大切なテーマ

──キャストの皆さん、それぞれ2役を演じられるということですが、役どころと演技プランを改めて教えてください。

『バイオーム』制作発表会見 から、中村勘九郎=森好弘 撮影拡大『バイオーム』制作発表会見 から、中村勘九郎=森好弘 撮影

勘九郎:わたしは2役とも人間の役です。人間と植物をやりたかったなぁと思います(笑)。本を読んでいても楽しいですし。演じるルイとケイは8歳の男の子と女の子で、40歳のわたしが演じるにあたって不安しかないのですが(笑)、遠い昔に置き忘れてしまった純粋な心を本番までに取り戻したいと思います。

──もし植物の役だとしたら、どんな役がやりたかったですか?

勘九郎:やっぱりクロマツはかっこいいですね。威厳があって、堂々としていて、大きな木からみんなに栄養を与える場面があるのですが、コミカルでありながら原点という感じがしてカッコイイです。

『バイオーム』制作発表会見 から、花總まり=森好弘 撮影拡大『バイオーム』制作発表会見 から、花總まり=森好弘 撮影

花總:私はルイの母親の怜子とクロマツの芽をさせていただきますが、まだ自分の役どころや、台本からどう感じで役をつくっていくのか詳しくお話を伺えていないので、今の段階では台本を読んだだけの自分のインスピレーションしかありません。ですから詳しいことは言えないのですが、人間と植物の2役というのは初めてのことですし、怜子がやるからクロマツの芽の意味もあるので、二つの役の関連性ということにも絶対に大切なものがあると思っています。すばらしいキャストの方々とコミュニケーションをとりながら、自分の果たすべき役割をきちんと把握して作っていきたいと考えています。

『バイオーム』制作発表会見 から、麻実れい=森好弘 撮影拡大『バイオーム』制作発表会見 から、麻実れい=森好弘 撮影

麻実:わたしのうちの近くに自然教育園という昔の武家屋敷の庭があるんです。そこでたまたまなのですが、樹齢200年の松が倒れたんですね。その時にちょうど松ぼっくりから芽が出て、いまそれを育てている状態だと書かれているのを読んで非常に感動したんです。わたしは自然が大好きで、与えられた場所に淡々と堂々と根を張って生きるクロマツ。そのクロマツとは対照的な家政婦・ふき。どちらかと言うと植物のほうがおだやかな感じで、ふきのほうは緊張感を感じながら演じたいと今は思っています。両方ともとても素敵なお役で、特に植物の世界はかわいくてコミカルな箇所もたくさんありますし、ふきに関しては、それはありませんからなんとか頑張って表現したいなと思います。

『バイオーム』制作発表会見 から、古川雄大=森好弘 撮影拡大『バイオーム』制作発表会見 から、古川雄大=森好弘 撮影

古川:僕は庭師の野口とイングリッシュローズの2役をやらせていただきます。野口は家政婦・ふきさんの息子で、先代から続く庭師を継いだ男です。わりと謎めいた人物だと思うのですが、彼も葛藤を抱えていて、物語に大きく関わってくる重要な役と思っております。イングリッシュローズは「マダム風の口調」というヒントをいただいておりまして、それを色々な参考資料などを見て、習得して披露したいと思います。

『バイオーム』制作発表会見 から、成河=森好弘 撮影拡大『バイオーム』制作発表会見 から、成河=森好弘 撮影

成河:僕がやらせていただくお役は、学という婿養子とセコイアの2役です。学は勘九郎さんと親子で花總さんと夫婦というハードルの高いお役でもあるのですが、政治家一族の物語が核にあり、そこに婿養子にやってきて、血筋はないけれど非常に優秀で努力で入ってきた人物として、様々なストレスや葛藤を抱えています。花總さんとの夫婦でかなり生々しい部分を担当させていただいているので、そこをどこまで攻めていけるかだなと思います。セコイアの木については、僕はあまり知らなかったのですが西洋種の木で。政治家一族の家に庭園があるのですが、それが政治家の趣味でもあり、威厳の象徴でもあり、いろんな木を植林していき、日本古来種と西洋の植物が混じってよくわからない庭園になってしまう。そこもまた戯曲にとって大事なテーマでもあったりするので、そこで植物として何を見守り、どういう心持ちで観てきたのか?を考えるのがとても楽しいです。

『バイオーム』制作発表会見 から、野添義弘=森好弘 撮影拡大『バイオーム』制作発表会見 から、野添義弘=森好弘 撮影

野添:一族の家長の克人という方と、クロマツの盆栽の二つをさせていただきます。克人は一見厳しくてすごく冷酷のような感じに見えるのですが、そうじゃない部分を表現できたらと思います。クロマツの盆栽は台本に書いてある通り、ちょっと愉快な庶民派のおっさんみたいな感じで対照的ですね。ひとつは感覚的、ひとつは論理的なのでその辺の違いを出していければいいのかなと思っています。

『バイオーム』制作発表会見 から、安藤聖=森好弘 撮影拡大『バイオーム』制作発表会見 から、安藤聖=森好弘 撮影

安藤:わたしは花療法士のともえと、竜胆(リンドウ)を演じさせていただきます。ともえさんは「あやしげな花療法士」と紹介されているのですが、台本を読み進めていくと、この作品の中できっと一番庶民的で地に足がついていて、何より幸せについて知っている人だなと感じました。私は双子を育てている母でもあるのですが、ともえさんと同じような感情を持つことが生活の中でも日々あるので、そのあたりを表現できたらいいなと思っています。竜胆さんについては、植物を演じたことがないので、どういった役作りをしたらいいのかと考えまして、竜胆の花言葉を検索してみましたら、「正義」というのがありました。その「正義」はともえさんにも竜胆さんにも共通する部分だなと思いましたので、そこを二役の共通項として楽しんで演じられたらいいなと思っております。

メリーゴーランドに乗ってみたらジェットコースターだった

──キャストの方々、脚本を読まれた第一印象を教えてください。

勘九郎:先ほど成河さんがおっしゃったように、本当にヒリヒリするような脚本でございまして、わかりやすいもの、簡単なもの、見やすいものが良しとされている世の中に、パンチを与えるような作品だなと思いました。植物や大地、地球などと聞くと難しいかなと思うのですが、お説教臭くなく、観に来てくださったお客さまに何か感じ取って持ち帰っていただけるような本だなと思いました。

花總:膨大なセリフ量で、ただの朗読劇ではなく物凄いドラマが込められているなと思ったのと、人間と植物の世界が上手い具合に合わさってできているので、読んだことのないような面白さだなと思いました。

麻実:はじめに台本に目を通したときに「おっと難しいな」と思いました。でも何度も何度も繰り返して読んでいくと、非常に噛み応えがあって面白く、どうなるんだろうという期待感が膨らんできて、とてもいい本だと思います。

古川:目の前にメリーゴーランドがあるなと思って乗ってみたら、気づいたらそれはジェットコースターだった。そして、乗り終わった後に心を鷲掴みにされていて、もう1回乗りたいなあと思うような本だなと思いました。伝わりますか?(笑)。

成河:最初の印象ですけれども、作家さん、上田さんの直球での日本の社会への怒りのようなものを感じましたし、希望のようなものも感じました。ご自分のファンタジーの中に閉じこもっているだけではなく、社会全体を上田さんという方の目線でザっと貫いたような、筆でバッと叩きつけるように書いたエネルギーをとてつもなく感じ、そういう作家さんって素敵だなと思いました。

野添:最初に読んだときは「どうすんの?」と(笑)。本当に想像がつかなくて、映像だったらできるんだけど、舞台でどうするんだろうという、びっくりする気持ちになりました。でも皆様のなかには理解しづらいのでは? 難しいというイメージがあるかも知れませんが、僕にはそうではなくて、見ていくうちにどんどんなかに引き込まれていく、わかりやすい作品だなと思います。台本のメッセージは観ていくと受け取りやすいと思いますので、持って帰れるものがいろいろとあるので、今はとても楽しみな作品だなという印象に変わりました。

安藤:台本を開いて読み始めたときには、まるで絵本を読んでいるかのような感覚がありました。そのうちにファンタジーか、そして悲劇か、では次は?といろいろな要素が詰まった本だなと思って楽しく読みました。頑張ります。

普遍的な大きな物語をキャストと共に

──上田さん、宝塚にいらっしゃったときには色々な条件があったと思いますが、今回それらがないなかで、新しく発見された部分はありますか?

上田:例えば上演時間やキャストを必ず何人出さなくてはいけないという縛りがないので、ブレインストーミング的に最初の設定だけ考えて、あとはどこに行きつくかを特には決めずに、役が自由に動いていくという書き方ができるなと思ったのがひとつめの感想です。もうひとつは現代の日本ということで、せりふを美しくというのがそれほどないのかなと。荒々しい言葉遣いや性的表現も特に規制なくできるのは、新しいことだったなと思います。

──勘九郎さん、歌舞伎以外のお仕事をされる際に心がけていらっしゃることはありますか?

勘九郎:出会いですね。歌舞伎の世界は小さなコミュニティなので、こうして皆さまと出会えてひとつの作品をつくること。また稽古期間も歌舞伎の場合だと4日~5日ぐらいしかないのですが、今回もそこまで長くはないものの、じっくり皆さんと話し合ってひとつの作品を作りあげていく楽しみがありますね。

──今日が初顔合わせということですが、勘九郎さん皆様の印象を教えてください。

勘九郎:人見知りが激しいタイプなのですが、先ほど皆様とお会いしてお話させていただいたら、何かスッと入れる懐の深い方々ばかりなので!あとは「もう(セリフを)覚えた?」というような、足の引っ張り合いが既にはじまっていますから(爆笑)、楽しく頑張っていきたいです。

──足を引っ張っているのはどなたですか?

勘九郎:成河さんはじめ、色々と(笑)。

──両隣(麻実と花總)は宝塚出身の方々ですが。

勘九郎:本当にこんなに素敵な方々とご一緒できるなんて!歌舞伎は男だけですからね!(笑)。

──共演は楽しみですか?

勘九郎:そりゃあ楽しみですよ! 当たり前じゃないですか! (笑)。男くさいだけよりずっと楽しみです(笑)。

──麻実さん花總さんから見て勘九郎さんの印象は?

麻実:私が、勘九郎さんが少し大きくなってから拝見させていただいたのは、武道館でのオペラというちょっと特殊なタイプの舞台だったんです。その時赤い着物で舞われていた姿がとても印象的で「歌舞伎の世界から若くてすごい方が出てきたんだな」と思いました。もちろんその後も色々な舞台を拝見していますので、こうやって近くで、舞台でご一緒できるのはとても嬉しいですし、勘九郎さんからもいただけるものは一杯いただいて頑張っていきたいと思っています。

花總:いつも舞台を拝見させていただいていて、ものすごいエネルギーとセリフを発されている方だと思ってきたので、今おっしゃった「人見知り」ということが、自分のなかでは全く一致しないので(笑)、お稽古場でたくさん勉強させていただきたいと思っています。

──上田さん、一色さん、この作品を朗読劇にしようと思われた決め手は?

上田:もともと朗読劇を作るという企画からはじまっている作品で、「私が書いて、一色さんが演出される朗読劇をつくりませんか」とのお話からスタートしています。ですから2人でまずお見合いをするような(笑)、フリートークをして、「気があいそうだからやってみたら」というところからはじまった企画です。私も朗読劇はあまり拝見したことがなかったので、どういうものかわからずにいたのですが、元から植物の世界を書きたいというのはありました。植物は自分というものが強く発揮されていず、植物と植物の意識は共有されている、ひたすらそこで起きたことを受け取っている存在で。この作品では「大きな生き物が立ち上がった」というような、ある種ト書きのようなところを担ってくれるのではないかと思いました。朗読劇でト書きを読むのは無粋かなと思っていたので、植物に言ってもらえるのならちょうどいいなというところから書き始めたので、いまは朗読劇が最も適していると信じています。

一色:そうなんですよね。「朗読劇をやりましょう」とプロデューサーさんからお話をいただいたところからはじまっていて、上田先生とお見合いをしたときに(笑)、意気投合して4時間くらい喋ったんですよ。ものすごく波長があっている感じがして、先生もそうおっしゃってくださったので、この方となら何かを生み出せるなと思って待つことひと月、ふた月まではいかない、ひと月と少しですか。さっきも申し上げたようにものすごいスケール感のある台本が届き、そこから自ずと歩き出しました。朗読劇の形から始まっているんだけれども、そこにあった台本が朗読劇の枠ではおさまらないと言うよりは、朗読劇をやるつもりで読んでいたら、朗読劇ではなくなっている自分がいた。そこがスペクタクルリーディングの根源かなと思っています。ですから上田先生の思いが目の前にどんどん広がってきて、朗読劇なんですが気付いたら演劇の世界をも飛び越えて、もっと普遍的な大きな世界の話になっていて「どうしよう」という感じですが(笑)。それを体現できること、この思いに賛同してくださってやってくださるという役者さんを頼りにして、一緒につくっていこうと、いま光が見えてきています。是非楽しみにしていらしてください。

◆公演情報◆
スペクタクルリーディング
『バイオーム』五感を揺さぶる朗読劇
2022年6月8日(水)~6月12日(日)  東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
公式ホームページ
公式twitter
[スタッフ]
作:上田久美子
演出:一色隆司
[出演]
中村勘九郎 / 花總まり 古川雄大 / 野添義弘 安藤聖 / 成河 / 麻実れい

筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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