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【公演評】ミュージカル『四月は君の嘘』

劇場全体にあふれだす青春の輝きと疾走感!

橘涼香 演劇ライター


 音楽を通じて惹かれ合う魂と、切なくも尊い愛と友情を描いたミュージカル『四月は君の嘘』が東京日比谷の日生劇場で上演中だ(29日まで。6月4日~5日群馬・高崎芸術劇場大劇場、6月9日~12日愛知・御園座、6月16日~18日兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール、6月25日~26日富山・オーバード・ホール、7月1日~3日福岡・博多座でも上演)。

 『四月は君の嘘』は、新川直司が2011〜2015年に講談社・月刊少年マガジンにて連載した漫画作品。2013年講談社漫画賞少年部門を受賞するなど、連載開始以来高い評価を受け、2014年~2015年にはフジテレビ「ノイタミナ」枠にてTVアニメ化。2016年には実写映画としても大ヒットを記録するなど、今尚多くの人を惹きつけてやまない傑作コミックだ。今回のミュージカル『四月は君の嘘』は、そんな大人気作品待望のミュージカル化で、『ジキル&ハイド』『笑う男The Eternal Love -永遠の愛-』『デスノートTHE MUSICAL』などを手掛けた、ミュージカル界の巨匠、フランク・ワイルドホーン全曲書下ろしによる楽曲。ミュージカル『キューティ・ブロンド』、同じフランク・ワイルドホーン音楽による『笑う男The Eternal Love -永遠の愛-』を演出するなど、日本のミュージカルシーンに欠かせぬ存在となった上田一豪訳詞、演出。ジブリ映画『かぐや姫の物語』、『メアリと魔女の花』の共同脚本でも知られる坂口理子脚本という強力なスタッフ陣が集結。

 更に、主人公の元天才ピアニスト・有馬公生には数々の映像・舞台での主演が続く小関裕太と、ミュージカル『プロデューサーズ』『ジャック・ザ・リッパー』等々の優れた演技で、ますます存在感を高めている木村達成のWキャスト。公正を再び音楽の道へと向かわせようとする、型破りな個性派ヴァイオリニスト・宮園かをりに、ミュージカル『モーツァルト!』『レ・ミゼラブル』での好演も記憶に新しい生田絵梨花。公生の幼馴染で、彼を見守り続ける女子高生・澤部椿役に、『レ・ミゼラブル』『屋根の上のヴァイオリン弾き』など大作ミュージカルでの活躍が目覚ましい唯月ふうか。公生と椿の友人で、サッカー部の花形部長・渡亮太に、ストレートプレイからミュージカルまで幅広く存在感を示す水田航生と、舞台を中心に活躍の場を広げ『マイ・フェア・レディ』のフレディ役を爽やかに務めた寺西拓人のWキャストと、ミュージカル&演劇界期待の若手たちがその名を連ね、本来2020年7月に上演予定だったコロナ禍による公演中止から2年を経た2022年。メインキャスト6人全員が揃う奇跡のなか、満を持して世界初演の幕が開いた。

作品を盛り立てた充実のキャスト

 そんな作品で主人公有馬公生を演じた小関裕太は、ピアノの師でもあった母親との死別に大きなトラウマを抱え、心を閉ざしている公正を、一見元々内向的な高校生に見せる、深く傷ついていることさえも表に出せない、敢えて無機質でいる表現がまず印象に残る。しばらく映像の仕事に軸足を置いていて、この作品で再び舞台へというところで、公演自体が中止になるという悲運があったが、おそらくひたひたと蓄えてきたのだろうエネルギーを、際立ったビジュアルをメガネの奥に隠した公正役の深みにつなげることに成功していて、素直な歌声も心地良い。

『四月は君の嘘』公演から、小関裕太と生田絵梨花=橘涼香 撮影拡大『四月は君の嘘』公演から、小関裕太と生田絵梨花=橘涼香 撮影

 もう1人の有馬公生の木村達成は、ある意味対照的に深い葛藤と後悔とやるせなさを抱えている、公正の苦悩が前に出る演じぶりが張り詰めた緊張感をみなぎらせている。クッキリと陰影濃い顔立ちに現れる様々な感情がメガネ越しにも伝わってきて、この2年間で演じてきた数々の個性的な役柄が、木村のなかに確かな糧として蓄積されているのが見てとれるようだ。歌声にも切々とした響きがあり、正確無比な演奏マシーンだった神童時代から今に至る、公正がかぶってきた仮面がかをりによって外される、その変化を堪能できる公正だった。

『四月は君の嘘』公演から、木村達成=橘涼香 撮影拡大『四月は君の嘘』公演から、木村達成=橘涼香 撮影

 公生を再び音楽の世界に連れ戻そうとするヴァイオリニスト宮園かをりの生田絵梨花は、大舞台のセンターに相応しいヒロイン力の高さが群を抜く。特に『ロミオ&ジュリエット』のジュリエットや、『レ・ミゼラブル』のコゼットといった、恋につき進む美しいヒロイン像が何よりも似合っていた生田が、『モーツァルト!』のコンスタンツェ、『レ・ミゼラブル』のエポニーヌと果敢に役幅を広げてきたことが、この自分の感覚に正直なかをりの造形に生きていて、公正に向き合った時に見せる笑顔と、背を向けた時のあまりにも切ない表情の双方に魅了される。歌声もますます豊かになり、ヴァイオリンニストとしての演奏姿も堂々としていて、この2度目の初演とも言える今回の上演の合言葉ともなった「アゲイン!」の台詞が、前を向き続けたかをりの心情にも重なりいつまでも耳に残った。

『四月は君の嘘』公演から、小関裕太(左)と生田絵梨花=橘涼香 撮影拡大『四月は君の嘘』公演から、小関裕太(左)と生田絵梨花=橘涼香 撮影

 公生の幼馴染澤部椿の唯月ふうかは、永遠の少女を感じさせる個性が高校生役に打ってつけなことはもちろん、止まってしまった公生の時間を再び動かしたい一心で、自分の心を押し隠してかをりを手助けする椿の、意地っ張りが一周回った健気さを的確に表現している。公正が再びピアニストを目指すかどうかには価値観がなく、ただ公正が「さよなら」なり「こんにちは」なりをもう一度ピアノに言うことで、歩みを進めて欲しいと願っている椿の、献身に近い感情をウエットになり過ぎずに演じた表現力に感嘆した。歌唱力の高さはいわずもがなで、はぐらかす芝居の多い椿の心情が吐露される「月の光」は絶唱だった。

『四月は君の嘘』公演から、唯月ふうか=橘涼香 撮影拡大『四月は君の嘘』公演から、唯月ふうか=橘涼香 撮影

 かをりから好意を寄せられる渡亮太の水田航生は、サッカー部の部長で女子に好かれる人気者の渡が纏っている華やかさを、シャープな動きとある種カッコよくキメた芝居で表わしていて、学内の人気者という設定に説得力がある。それが徹底しているからこそ、最後の試合に負けた悔しさを露にする「The Beautiful Game」で見せる表情との落差が効いていて、大きなインパクトを残す渡だった。

『四月は君の嘘』公演から、小関裕太(左)と水田航生=橘涼香 撮影拡大『四月は君の嘘』公演から、小関裕太(左)と水田航生=橘涼香 撮影

 もう1人の渡亮太の寺西拓人は、2年前にテレビの歌番組で渡に扮して歌った時よりも、むしろ若返っているかに見える溌剌とした姿と、柔らかさが独自の渡像につながっている。「夢で逢おうね」に代表される、かをりに向かって言う芝居がかった台詞を、なんの狙いもてらいもなく、素で言っていると感じさせるからこそ、かをりが本当に必要としている人は誰か、その心情を察した渡の行動が胸迫った。

『四月は君の嘘』公演から、木村達成(左)と寺西拓人=橘涼香 撮影拡大『四月は君の嘘』公演から、木村達成(左)と寺西拓人=橘涼香 撮影

 思えば水田も寺西も『マイ・フェア・レディ』のフレディ経験者で、日本ミュージカルの伝統を拓いた作品で2人が培ったものが、この新たなオリジナルミュージカルに花開いているのが頼もしい。

 他にかをりの両親には未来優希と原慎一郎という、娘を思うデュエットナンバーがあまりにも短く感じられる優れた歌い手が揃ったし、コンクールの審査員をはじめ様々な役柄を演じるひのあらたと三木麻衣子は、存在自体に新しいミュージカルを支える安心感がある。また、原作ではそれぞれ大変大きな役柄である、若き演奏家を目指すライバル役、井川絵見の元榮菜摘、相座武士のユーリック武蔵、三池俊也の中村翼が、ポイントポイントの出番に高い集中力を発揮。原作世界から抜け出してきたようだった柴田実奈、持ち前の歌唱力で目を引く杉浦奎介をはじめ、アンサンブルメンバーの技術力が揃って高く、コーラスの厚みや、鮮やかなダンスで作品を盛り立てた力量を讃えたい。

『四月は君の嘘』公演から=橘涼香 撮影拡大『四月は君の嘘』公演から=橘涼香 撮影

 総じて、音楽を通じて運命的に出会った若者たちが、大切な人との出会いと別れのなか、それぞれの進む道を見出していくドラマが十二分に描き出されたミュージカルに仕上がっていて、当初の初演が中止になったが為に、結果としてコンセプトアルバムが先に世に出て、ミュージカルの舞台が追って姿を現した。世界に傑作として名を残すいくつかの王道ミュージカルと同じ道程を進むことになったこの作品が、それら先人たちの作品同様に、再演を重ねる日本発のミュージカル作品として育っていくことを期待している。

『四月は君の嘘』公演から=橘涼香 撮影拡大『四月は君の嘘』公演から=橘涼香 撮影

◆公演情報◆
ミュージカル『四月は君の嘘』
東京:2022年5月7日(土)〜29日(日) 日生劇場
群馬:2022年6月4日(土)〜5日(日) 高崎芸術劇場 大劇場
愛知:2022年6月9日(木)〜12日(日) 御園座
兵庫:2022年6月16日(木)〜18日(土) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
富山:2022年6月25日(土)〜26日(日) オーバード・ホール
福岡:2022年7月1日(金)〜3日(日) 博多座
公式ホームページ
原作:新川直司(講談社「月刊少年マガジン」)
脚本:坂口理子
作詞・作曲:フランク・ワイルドホーン
作詞:トレイシー・ミラー/カーリー・ロビン・グリーン
編曲:ジェイソン・ハウランド
訳詞・演出:上田一豪
[出演]
小関裕太/木村達成(Wキャスト)、生田絵梨花、唯月ふうか、水田航生/寺西拓人(Wキャスト)、未来優希、原慎一郎、ひのあらた、三木麻衣子、元榮菜摘、ユーリック武蔵、中村 翼 ほか

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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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