ロック・ドキュメンタリー2つの表情
少し前、シリーズ企画「ROCKUMENTARY2022」のオープニング作『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』をご紹介した。タイトルからわかるように、アメリカを代表する女性シンガーの半生を描いた作品だ。
「ミス・アメリカ」リンダ・ロンシュタットが残したメッセージ
そちらに対しての反響は大きく、彼女の影響力の大きさを実感した次第である。では、残り2作品についてはどうだろう? 今回はそれらに焦点を当ててみたい。
現役の女性ロッカー、スージー・クアトロ

『スージーQ』 全国順次公開中 ©The Acme Film Company Pty Ltd 2019
まず『スージーQ』。女性ロック・アーティストの草分け的存在といっても過言ではない、スージー・クアトロの半生を追ったドキュメンタリーだ。
ご存じの方も多いだろうが、キュートなルックスと不良っぽいアプローチによってインパクトを投げかけた人物である。ベーシストとしての力量もかなりのものだったが、小柄な体型にはそぐわない大きなベースを抱えて動き回る姿は、視覚的にも新鮮だった。
「見た目はかわいらしいのに悪ぶってる女の子」という、いくぶんアンバランスなイメージは決して不快なものでもなかったわけだ。それどころか“ちょうどよくミスマッチ”だったため、不良っぽいのに近寄りがたくはなく、むしろ多くの人々はぐいぐい惹きつけられたのである。

『スージーQ』 ©The Acme Film Company Pty Ltd 2019
私にとっても、彼女は特別な存在だった。最初の出会いは、音楽好きだった母親がいつも台所でつけていたラジオから流れてきた1974年のヒット・シングル「悪魔とドライヴ」。当時はまだ小学校高学年だったが、思春期の一歩手前ということもあって、彼女の不良っぽい音楽に惹かれるのは当然だったのかもしれない。
しかも、知識を持たない子どもにとっても、彼女の音楽はとても“ノリがいい”ものであった。それが「ブギー(Boogie)」と呼ばれるスタイルであったことはまだ知る由もなかったが、リスナーをぐいぐい牽引していくようなダイナミズムに魅了されてしまったのである。したがって以後も、「ワイルド・ワン」「トゥ・ビッグ」「ママのファンキー・ロックン・ロール」などのヒット曲に次々と引き込まれていった。