『ミューン 月の守護者の伝説』2人の監督に聞く
異なる世界の共存と調和を「2Dハーフ」で描く
叶精二 映像研究家、亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京造形大学・東京工学院講師
ベテラン・アニメーターの助言を支えに

アレクサンドル・ヘボヤン監督(左)とブノワ・フィリポン監督
──お二人共、長編アニメーションは初監督であったそうですが、原作のないオリジナルシナリオで資金を集め、映画を完成させる過程には大変なご苦労があったのではないですか?
フィリポン 確かに制作を進める上では、原作があった方がやりやすい面はあるでしょう。私の場合は、オリジナルのシナリオを温めていたものの、どう具体化していくかという道筋がなかなか見えていませんでした。アレクサンドル(・ヘボヤン)と出会って、彼と一緒ならばこの企画を進められると思いました。アレクサンドルとイメージを固めていき、幸いにしてそれが企画として通ったのです。彼がテクニカルな面も芸術性も様々なアプローチで進めてくれました。
──ヘボヤン監督はアニメーターとしてドリームワークスの作品で実績を積まれて、本作に参加するために退社されたと聞いています。
ヘボヤン その通りです。ドリームワークスは大規模なスタジオでしたから、様々な経験をさせてもらいました。そこには実績と才能あるスタッフが集まっており、そうした人々と共に働くことで得たものもたくさんありました。集団作業の連携についても学びました。
制作に際しては、グレン・キーン(※)から様々なアドバイスをいただきました。『ヒックとドラゴン』(2010年)や『カンフー・パンダ』(2008年)でデザインを担当したニコラス・マーレットが参加してくれたことも大きかったです。彼を含め著名なスタッフの参加によって、スポンサーにも話が通りやすくなりました。
(※)ディズニー2D長編黄金期のベテラン・アニメーター。『美女と野獣』(1991年)、『アラジン』(1992年)、『ターザン』(1999年)などでスーパーバイジング・アニメーター(キャラクター作画監督)を歴任。『塔の上のラプンツェル』(2010年)では製作総指揮、キャラクターデザイン、スーパーバイジング・アニメーターの一人三役を務めた。
──グレン・キーンからはどんなアドバイスをもらったのでしょうか。
ヘボヤン キーンとはドリームワークスで知り合ったのですが、まず準備の初期段階で「こういうストーリーでやりたいんですが」とストーリーボードを持ち込んで見てもらいました。すると、「是非これはやるべきだ。この企画はアメリカでは実現困難だろうが、君たちならば出来る」と力強い助言をくれたのです。その言葉は私たちにとって、大きな支えになりました。制作が決まってからも、何度も相談に乗ってもらいました。
──完成した作品についてグレン・キーンからは感想はもらいましたか。
フィリポン 彼はとても気に入ってくれました。私は『ミューン』の次の作品では、彼と一緒に仕事をしています(※)。
(※)グレン・キーン製作・出演・監督による実写+アニメーションの短編『Nephtali』(2015年)のこと。ブノワ・フィリポンは実写パートの監督を担当。