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【公演評】月組『ブエノスアイレスの風』

色香匂い立つ大人の男役に成長した暁千星がタンゴダンサーで初の東上公演に挑む

さかせがわ猫丸 フリーライター


 月組公演『ブエノスアイレスの風』-光と影の狭間を吹き抜けてゆく…-が5月18日、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで初日を迎えました(26日まで)。伸びやかなダンスと華やかな容姿で初舞台から注目を浴びていた98期生の暁千星さんが、いよいよ初の東上公演に挑みます。

 この作品は、軍事政権後のブエノスアイレスを舞台に、新しい人生を模索する男の生きざまを描き、1998年に紫吹淳さんで初演、2008年に柚希礼音さんで再演され、好評を博しました。正塚晴彦先生作品らしい独特な会話劇の中、差し込まれる情熱的なタンゴが最大の見どころとなっています。たくましい男役に成長した暁さんが、ダンサーの系譜を継ぐように今、そのバトンをつなぎました。(以後、ネタバレがあります)

暁が背中で語る男役へ

 物語は、晴音アキさん演じるフローラの透き通った歌声から始まります。切ないメロディーも、時折劇中で流れるバンドネオンの音色も、それだけで胸を打たれてしまいます。

 ――1900年代半ば、軍事政権が終わりを告げたブエノスアイレス。特赦で出所したニコラス(暁)は職を求め、街のタンゴ酒場へ向かった。そこでオーナーのロレンソ(凛城きら)からダンスの才能を買われ、酒場の踊り手イサベラ(天紫珠李)のパートナーとして雇われる。新しい人生がうまくいきそうになった矢先、昔の仲間で親友のリカルド(風間柚乃)とその妹リリアナ(花妃舞音)が訪ねてきた。

 ニコラスは穏やかな青年です。反政府ゲリラのリーダーで獄中にいましたが、もとは弁護士をめざしていたインテリでもあり、理性的な人物だったことから、時代の変化に伴う生き方を冷静に模索していました。それゆえに初めて出会った人々には、冷たい人という印象を与えていたかもしれません。内に秘めた優しさと、人を思う気持ちは誰より熱くても――暁さんは、そんなニコラスの隠された情熱とクールな表の顔を、抑えた演技でにじませるように表現していました。

 暁さんが真っ暗な舞台でスポットライトを浴びた瞬間からドラマチックな世界が始まります。歩き方、立ち方、視線の配り方など、細かなしぐさまで男の渋さにこだわる正塚作品を自然に体現していて、酒場でさりげなく腰に巻いたエプロン姿さえもしびれてしまう。月組ではみんなの弟的な印象だった暁さんも、いつのまにか“背中で語れる男役”へと成長していました。

 さらに歌唱力の目覚ましい向上も、いまだとどまるところを知らないようで、その響きはドラマシティの壁をも震わせるようでした。

◆公演情報◆
『ブエノスアイレスの風』
-光と影の狭間を吹き抜けてゆく…-
2022年5月18日(水)~26日(木) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
公式ホームページ
[スタッフ]
作・演出/正塚 晴彦

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筆者

さかせがわ猫丸

さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター

大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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