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つかこうへい演劇の本質照らしたソウル版『熱海殺人事件』

韓国で再び舞台演出を②

長谷川康夫 演出家・脚本家

ソウル版タイトルは『熱い海』

 原田と二人、初めて金浦(キムポ)空港に降り立ったのは、1985年10月の初旬だ。それまでに僕は韓国語の入門書を手に入れ、かろうじてハングルを読めるようにだけはなり、片言の挨拶も頭に入れていた。

拡大つかこうへい=1986年撮影
 空港からタクシーを拾い、教えられていた住所のメモを示し、ソウルのつかのもとに向かう。僕のハングル学習の甲斐あって、目的のマンションはすぐにわかった。そこには小山一彦も待っていた。

 つかのお母さんと会うのは、直木賞の授賞式以来だったが、息子の「弟子」がわざわざやって来たということで、にぎやかに歓待してくれ、そのまま昼食となった。現地での最初の食事が、広いテーブルにびっしり並ぶ、お母さん手づくりの韓国料理だったことは忘れられない。

 嬉しげに休む間もなく声をかける母に対し、つかの表情は驚くほど柔らかく、はにかみさえ見てとれた。それは長い付き合いの中で、初めて知るつかこうへいだった。

 原田と競い合うように料理を腹に詰め込んだ後、僕らはつかや小山と共に午後からの稽古に向かった。

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筆者

長谷川康夫

長谷川康夫(はせがわ・やすお) 演出家・脚本家

1953年生まれ。早稲田大学在学中、劇団「暫」でつかこうへいと出会い、『いつも心に太陽を』『広島に原爆を落とす日』などのつか作品に出演する。「劇団つかこうへい事務所」解散後は、劇作家、演出家として活動。92年以降は仕事の中心を映画に移し、『亡国のイージス』(2005年)で日本アカデミー賞優秀脚本賞。近作に『起終点駅 ターミナル』(15年、脚本)、『あの頃、君を追いかけた』(18年、監督)、『空母いぶき』(19年、脚本)などがある。つかの評伝『つかこうへい正伝1968-1982』(15年、新潮社)で講談社ノンフィクション賞、新田次郎文学賞、AICT演劇評論賞を受賞した。20年6月に文庫化。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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