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〈考える〉と〈悩む〉にもみくちゃにされる私たちにできることは

アメリカで痛感した〈観察する〉ことのポテンシャル

古川日出男 小説家

あの日から、私たちは〈悩み〉続けた

 考えることと悩むことは似ている。

 もしかしたら「どこが違うのだ?」と聞き返されるかもしれない。誰かが悩んでいるのだとしたら、それはすなわち、その人物が「考えている」ということなのではないか? と。

 けれども、いっぽうで「考えても考えてもしかたがないことを、やっぱり考えてしまうことを『悩む』と言うのだ」とも説明しうる。だとしたら、考えたならばそこそこは対応できるような事柄について思いわずらうことを〈考える〉と呼び、そうではない事柄に思いわずらわされることを〈悩む〉というのだ、とも説きうる。

 この定義をもうちょっと押しひろげたい。

 私たちは、自分自身で結論を出せる(かもしれない)問題については〈考える〉という行為をするのだけれども、どうしたって自分自身では結論に至れない(ように見える)問題を前にすると〈悩む〉のだ、と。

 たとえば新型コロナウイルスのこのパンデミック。2020年の3月11日に、WHO(世界保健機関)はこれをパンデミックであると宣言したのだけれども、その頃から私たちはずっと悩みつづけている。

 私たち一般人には、ウイルス学についての十分な知識もなければ、医療の世界の知見というのも乏しい、そして都市単位でロックダウンするとかしないとか、頭では〈考える〉ことはできても実行するためには政治的な力が必要なので、それがないから考えてもしかたがない結果となってしまい、とどのつまり〈悩む〉ことになる。

 要するに2020年からこの方、私たち(この「私たち」には地球上のほとんどの人間が含まれる)はずっと、これから仕事はどうなるんだろうとか、ワクチンはいつ打てるんだろうとか、そもそも今日や明日、どうしたらいんだろうと考えつづけてきたのだけれども、そういう思考はことごとく、単に「思考というよりも『悩み』だった」のだ、と言い切れてしまう。そして、だからこそ、かなり多くの人たちが精神的に参ってしまったのだな……とも推し量れる。

拡大閑散とした上海の繁華街・南京東路。感染が急拡大し地区ごとの封鎖が始まっていた=2022年3月18日

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筆者

古川日出男

古川日出男(ふるかわ・ひでお) 小説家

1966年生まれ。1998年、長篇小説『13』でデビュー。『アラビアの夜の種族』(2001年)で日本推理作家協会賞と日本SF大賞を受賞。『LOVE』(05年)で三島由紀夫賞、『女たち三百人の裏切りの書』(15年)で野間文芸新人賞、読売文学賞。他に『サウンドトラック』(03年)、『ベルカ、吠えないのか?』(05年)、『聖家族』(08年)、『南無ロックンロール二十一部経』(13年)など。11年、東日本大震災と原発事故を踏まえた『馬たちよ、それでも光は無垢で』を発表、21年には被災地360キロを歩いたルポ『ゼロエフ』を刊行した。『平家物語』現代語全訳(16年)。「群像」で小説『の、すべて』連載中。「新潮」(2022年4月号)に戯曲『あたしのインサイドのすさまじき』を発表した。新刊『曼陀羅華X』(新潮社、3月15日刊行)。音楽、演劇など他分野とのコラボレーションも多い。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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