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【公演評】ミュージカル『ガイズ&ドールズ』

井上芳雄・明日海りお・浦井健治・望海風斗が華やかに競演

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 帝国劇場『ガイズ&ドールズ』が6月9日、初日の幕を開けた。1950年にブロードウェイで初演、その後、日本でも何度か上演され、とくに宝塚歌劇では1984年に大地真央・黒木瞳のコンビで上演されて以来3度も再演されたおなじみのミュージカルだ。

 そして、このたびは主要キャスト4人に井上芳雄・明日海りお・浦井健治・望海風斗が顔をそろえるということで、上演が発表になったときはミュージカルファンを騒然とさせた。

 ブロードウェイの新進気鋭、マイケル・アーデンが演出を手がけ、70年以上前に生まれた作品を現代に息づかせた。彼とこれまでの作品でもチームを組んできたデイン・ラフリーが美術を・エイマン・フォーリーが振付を担う。まるで映画の中からリアルな世界が現れてくるような幕開けに目を見張る。

『ガイス&ドールズ』公演から拡大『ガイス&ドールズ』公演から

 物語の舞台は1936年のニューヨークだ。男たちは禁じられた賭け事「クラップ」に夜な夜な熱狂している。クラブ「ホット・ボックス」の踊り子・アデレイド(望海風斗)は、婚約してから14年目だというのに、いまだクラップに夢中の恋人ネイサン(浦井健治)にやきもきしている。

 クラップの場所確保のために1000ドルが必要になったネイサンは、ニューヨークにやってきた天才ギャンブラー・スカイ(井上芳雄)にある賭けを持ちかけた。それは「自分が指名する女性を、その日のうちにハバナでのディナーに誘い出すことができるか」というものだった。スカイも乗り気になるが、その女性とは、美人だがお堅いことで有名な救世軍の軍曹サラ(明日海りお)だった……‼

対照的な2組のカップルの物語をくっきりと

 今回、注目の4人がキャスティングされているだけあって、スカイとサラ、ネイサンとアデレイドという2組の男女の対照的な恋模様が、よりくっきりと対比されている印象だ。丁々発止のセリフの応酬で、物語はテンポ良く進んでいく。

 ギャンブラーとして生きるスカイと神に身を捧げるサラは、一見真逆のようでいて、愛に対して固く心を閉ざしている点では似た者同士だ。そんな2人が出会ってしまったことで、次第に心を開き、惹かれあっていく。

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 井上芳雄のスカイはギャンブラーらしい洒脱な抜け感と、そこから透けて見える意外な誠実さとのバランスが絶妙だ。歌声の魅力は言うまでもなく、ことにスカイが大勝負に出るときに歌う「LUCK BE A LADY」で客席全体を集中させる力がすごい。

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 明日海りおのサラは、その可憐さで登場の瞬間からはっと目を引く。頑なだった心がスカイとの出会いによって解放されていく過程を、明日海らしい芝居心で柔らかく繊細に見せていく。

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 いっぽう、ネイサンとアデレイドは、どんなに喧嘩ばかりしていても、根底のところで愛し合っている。決して離れられない2人の物語である。

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 浦井健治のネイサンは裏社会の男ながらも明るいお人好しで、飄々とした風情が愛嬌たっぷり。望海風斗のアデレイド(望海風斗)は登場のたびに笑いを誘うが、1幕、2幕それぞれのショー場面では堂々たるスターぶりを見せる。

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 おなじみの個性あふれるキャラクターたちが物語に華を添える。ナイスリー・ナイスリー・ジョンソン(田代万里生)が八面六臂の大活躍、歌の聴かせどころもたっぷりとある。「クラップやろうぜ!」が口癖のビッグ・ジューリには瀬下尚人、「これぞニューヨーク」の決め台詞で懐の深さを見せるブラニガン警部補は石井一孝。

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 男たちのクラップ場面は真剣で、タカラヅカ版とはまた違う迫力がある。スカイがサイコロを振った時の拍手喝采は、客席も一緒になって勝ちを喜んでいるようだ。

 威厳に満ちたカートライト将軍には未沙のえる。何気ない一言に可笑しみを感じさせる未沙さん節は健在だった。救世軍のアーヴァイド・アバナシ―には林アキラ。父親のようにサラを見守る目線が温かく、歌も絶品だ。

◆公演情報◆
ミュージカル『ガイズ&ドールズ』
2022年6月9日(木)~7月9日(土) 帝国劇場
2022年7月16日(土)~29日(金) 博多座
公式ホームページ
[スタッフ]
原作:デイモン・ラニヨン
音楽・作詞:フランク・レッサー
脚本:ジョー・スワリングエイブ・バロウズ
演出:マイケル・アーデン
訳詞・日本語台本:植田景子(宝塚歌劇団)
[出演]
井上芳雄、明日海りお、浦井健治、望海風斗
田代万里生/竹内將人/木内健人/友石竜也
瀬下尚人/未沙のえる/林アキラ/石井一孝 ほか

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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