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『ベイビー・ブローカー』是枝裕和監督に聞く(上)──韓国社会の価値観

「韓国の人たちは、毎日『イカゲーム』を戦っていると聞きました」

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

 依然として歴史認識の違いがしこりを残す日本と韓国。3月の韓国大統領選では保守系最大野党「国民の力」のユン・ソンニョルが新大統領に選ばれ、2カ国の関係改善に期待を寄せる声もあがったが、「雪解け」と呼ぶにはほど遠い。しかし、軋む日韓関係もどこ吹く風、カンヌ国際映画祭にて素晴らしき「KY力」を発揮しながら、両国の文化コラボを実現していたのが『ベイビー・ブローカー』だ。

『ベイビー・ブローカー』  6月24日(金)より東京・「TOHOシネマズ 日比谷」ほか全国ロードショー ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED  配給:ギャガ拡大『ベイビー・ブローカー』  6月24日(金)より東京・「TOHOシネマズ 日比谷」ほか全国ロードショー ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED  配給:ギャガ

 監督は『万引き家族』(2018)で同映画祭の最高賞パルムドールを受賞済みの是枝裕和で、主演は韓国のスター俳優ソン・ガンホ。2019年のパルムドール受賞作である『パラサイト 半地下の家族』の主演俳優でもある。ふたりのアジア映画人による幸福な協働に、カンヌは大いに湧いた。本作はガンホに韓国初の最優秀男優賞を授与。韓国では日本より一足早く6月8日から公開され、初登場1位を記録している。

メインの上映会場リュミエール劇場。『ベイビー・ブローカー』のレッドカーペットでは、世界のカメラマンから「ソン・ガンホー!」の太い声が飛び、是枝監督とガンホ本人が面白がっていたという。=撮影・林瑞絵拡大カンヌ国際映画祭のメイン上映会場であるリュミエール劇場。『ベイビー・ブローカー』のレッドカーペットでは、世界のカメラマンから「ソン・ガンホー!」と太い声が飛び、本人と是枝監督が面白がっていたという=撮影・林瑞絵
 是枝監督のもとには、人気俳優のカン・ドンウォン(『新感染半島 ファイナル・ステージ』)、ペ・ドゥナ(『空気人形』)、イ・ジュヨン(『梨泰院クラス』)、そして“K-POP クイーン”の異名を取るシンガーのイ・ジウン(アーティスト名は“IU” )も集まった。さらに撮影のホン・ギョンピョ(『パラサイト 半地下の家族』『バーニング 劇場版』)、作曲家のチョン・ジェイル(『パラサイト 半地下の家族』『イカゲーム』)ら、韓国の一流スタッフが力を結集し、作品を支え合った。全編韓国語でオール現地ロケの本作は、是枝監督初の韓国映画である。

 本作は「赤ちゃんポスト」を起点とするドラマだ。いろいろな事情で子育てができない親が匿名で赤ちゃんを預けるこのシステムは、2000年にドイツで始まり、日本では2007年、韓国では2009年から存在する。是枝監督は2013年頃には興味を抱いたという。

 借金に追われるクリーニング屋店員のサンヒョン(ソン・ガンホ)、「赤ちゃんポスト」のある施設で働き、自らも児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)というふたりの“赤ちゃんブローカー”の男と、訳アリのため子供を手放す選択をした若い母親のソヨン(イ・ジウン)が出会い、さらに途中からはやはり児童養護施設の少年へジン(イム・スンス)が加わり、赤ちゃんの養父母を見つける旅に出る。そんな彼らの後を、現行犯逮捕を狙う二人組の女性刑事スジン(ペ・ドゥナ)とイ(イ・ジュヨン)が追いかける。

 釜山からソウルへ。オンボロのバンに乗り込み、悲喜こもごもの感情を乗せ進んでゆくロードムービー。ユーモアと人間味溢れる視線の先には、冷静な社会批判がある。

『ベイビー・ブローカー』は「人間の内面を豊かに描いた作品」に授与されるエキュメニカル審査員賞を受賞した。=撮影・林瑞絵
拡大『ベイビー・ブローカー』は「人間の内面を豊かに見つめる作品」に授与されるエキュメニカル審査員賞を受賞=撮影・林瑞絵
 根底に流れるのは「命の肯定」。今年のカンヌで同じく注目を集めた早川千絵監督『PLAN 75』のテーマと響き合うのは、時代の要請だろうか。『ベイビー・ブローカー』は昨年の濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』に続き、キリスト教信者の映画関係者が「人間の内面を豊かに見つめる作品」に授与するエキュメニカル賞も受賞した。

 軽やかに国境を越え、まるでコロナ禍もなかったかのような活躍を続ける是枝監督に、カンヌで話を伺った。

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筆者

林瑞絵

林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト

フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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