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『ベイビー・ブローカー』是枝裕和監督に聞く(上)──韓国社会の価値観

「韓国の人たちは、毎日『イカゲーム』を戦っていると聞きました」

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

今まではもう少しこっそりカンヌに……

初めて韓国映画を手がけた是枝裕和監督=撮影・林瑞絵拡大初めて韓国映画を手がけた是枝裕和監督=カンヌで、撮影・林瑞絵

──『万引き家族』で最高賞パルムドール受賞後のカンヌでした。期待値もマックスになっていたと思いますが。

是枝 到着してすぐに自分でもそれをちょっと感じただけに「大丈夫か?」と。でも、自分の作ったものに関して、納得はしていました。ただ、「マジェスティック」(映画祭のメイン会場近くの高級ホテル)の壁に、自分の作品のポスターが“どーん”みたいな状況は、想像だにしていませんでした。

高級ホテル「マジェスティック」には『ベイビー・ブローカー』とパク・チャヌク監督『別れる決心』の2本の韓国映画のポスターが並んだ=撮影・林瑞絵拡大カンヌの高級ホテル「マジェスティック」には『ベイビー・ブローカー』(右)とパク・チャヌク監督『別れる決心』の2本の韓国映画のポスターが並んだ=撮影・林瑞絵

──それは勢いに乗る韓国映画だからなせる技なのですか。

是枝 CJエンタテインメント(韓国の総合エンタメ企業。本作のセールスエージェント)の資金力と気合いの入り方が、そうさせているのだと思います。会期中に(米エンタメビジネス誌)「ヴァラエティ」の表紙になるとか、そういうお膳立ての中でカンヌに来たのは初めてでしたから。今まではもう少しこっそり来てたんですけれど。

──今回は逃げられなかったということですね(笑)。さて、「赤ちゃんポスト」は日本ではよく知られていると思います。それが本作の舞台である韓国にもあるのは知りませんでした。ある意味、妙なシステムにも思えるのですが、なぜ興味を持たれたのでしょうか。

是枝 最初に関心を持ったのは、『そして父になる』(2013)を作っている頃です。日本の養子縁組や里親制度を調べていく過程で、「こうのとりのゆりかご」(日本で初めて「赤ちゃんポスト」を設置した熊本市の慈恵病院が使う名称)の存在を知って、その取り組みをされている方の本を読みました。日本だけではないでしょうが、「赤ちゃんポスト」は今も評価が割れています。映画の題材として扱うには、むしろその方が適していると思いました。

──それからご自身で取材をされ、作品に反映したという流れでしょうか。監督はドキュメンタリーも多く手がけているので、当事者の話を聞いて作品にするというのは得意分野かと思うのですが。

是枝 それはかなり先のことです。韓国にも「赤ちゃんポスト」があるのを知って、韓国版のプロットを書いたのが2016年。実際に韓国で映画を作れるという前提ができてリサーチを開始したのは、本当に2020年の暮れくらいからだから、まだ1年半なのです。この間、「赤ちゃんポスト」や養護施設関係者、実際にブローカーの事件を扱った刑事などに取材をしました。今韓国の養子縁組制度は厳格に法律のもとで実施されていますが、その法改正に関わった弁護士さんにも話を聞きました。こうしてネガティブな意見を持つ人も含め取材をして、その辺を脚本づくりに反映させていったのです。

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筆者

林瑞絵

林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト

フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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