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『ベイビー・ブローカー』是枝裕和監督に聞く(上)──韓国社会の価値観

「韓国の人たちは、毎日『イカゲーム』を戦っていると聞きました」

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

韓国人は実生活で『イカゲーム』を戦う

ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED拡大ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

──「赤ちゃんポスト」出身の方にも話を聞いたのでしょうか。

是枝 子どものプライバシーは守られていますので、直接コンタクトするというよりは、アンケートみたいな形で質問を渡してもらいました。それよりも養護施設出身者の方と、オンライン上ですが話をさせてもらったことが大きかったです。

──印象的なやり取りはありましたか。

是枝 韓国だけではなく日本でも話を聞きましたが、例えば、(NHKの)「クローズアップ現代」が「赤ちゃんポスト」を取り上げた回にゲストで出て、「赤ちゃんポスト」出身者の子の話を聞いたりしました。また、韓国の養護施設出身の人の言葉も大きかったです。「自分は生まれてきてよかったのか?」と。

──それは重い言葉ですね。

是枝 重かった。そう思いながら大人になることの辛さは、やっぱり想像を超えています。で、その社会の側にいる大人の一人として、「その子たちが自分の生を肯定するために自分は何ができるのか」ということを考えて、映画を作りはじめました。映画の人間にできることは非常に限定的かもしれませんが。『万引き家族』の時もそうでしたが、いつも映画を作る時は「誰に向かって作るのか」を決めるのですが、今回はその子たちに向けて作っています。

──映画作りはちょうどコロナの感染が広がった時期に進んだかと思います。いろんな方が亡くなる中で、社会的にも「命の意味」をあらためて考え直す時期でもあったと思うのですが、何か影響はありましたか。

是枝 どうでしょうね。コロナが直接影響したかはわかりません。ただ、(映画『PLAN 75』の監督である)早川千絵さんとも話をしたのですが、彼女の映画も要するに「75歳を超えた命は価値がない」とする社会を描いていますよね。僕の映画は赤ちゃんの話ですが、多分違う角度から同じ価値観に対しての「違和感」を表明していて、「きっとそこの共通点があるね」というところで一致しました。日本で暮らしていると「自己責任」という言葉とともに、「価値のない命があるんだ」とか「役に立たないものは意味がない」という空気が社会全体を覆ってしまっていると強く感じます。

『PLAN 75』でカメラドール特別表彰を受けた早川千絵監督(右)と一緒に。是枝裕和監督は早川監督が参加したオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』(2018)を監修していた=撮影・林瑞絵拡大『PLAN 75』でカメラドール特別表彰を受けた早川千絵監督(右)と。是枝裕和監督は早川監督が参加したオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』(2018)を監修していた=撮影・林瑞絵
──私もそこはすごく感じます。

是枝 大学で教えていても、「それは何か役に立つんですか」と学生から問われるんですよ。「その番組を作って何か社会が変わりましたか」とか(笑)。なるほど「即効性」を求めているのね、と。これは学生に限ったわけではなくて、世の中全体がそうなっていると思います。余裕が無くなってる。

──映画ひとつ取っても、「観客が入る作品か否か」の物差しで見られたり……。

是枝 そう。「文学は役に立たないから文学部はなくす」とか、「本は(実用的な)新書やビジネス書しか読まない」みたいな話です。多分、それを笑い話にできるのは今のうちだけで、全体的にそっちに大きく傾いているのだと感じます。その違和感は『PLAN 75』にも『ベイビー・ブローカー』にも、おそらく出ているんじゃないでしょうか。

──たしかに両作は根っこで深く繋がっていると感じます。『ベイビー・ブローカー』は韓国で撮られましたが、韓国にも日本と同じように、そういった閉塞感があるのでしょうか。

是枝 それはありますね。韓国は日本以上に

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筆者

林瑞絵

林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト

フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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