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阿部サダヲ×谷原章介取材会レポート

『ドライブイン カリフォルニア』大阪公演、いよいよ開幕!

米満ゆうこ フリーライター

 松尾スズキ作・演出の舞台『ドライブイン カリフォルニア』が、6月29日~7月10日にサンケイホールブリーゼで再演される。同作は1996年、松尾による「悲劇」を基本としたプロデュース公演「日本総合悲劇協会」の第1作として初演され、2004年にも上演。強烈なキャラクターと毒たっぷりの物語が展開する松尾の戯曲の中でも「やさしい作品」と評判で、笑いも多い悲喜劇だ。今回、出演する阿部サダヲと谷原章介が、東京公演の合間をぬって取材会を開き、作品について和気あいあいに語ってくれた。

ドラマで共演した二人が約20年ぶりに共演

阿部サダヲ(左)と谷原章介=引地信彦 撮影拡大阿部サダヲ(左)と谷原章介=引地信彦 撮影

 舞台は裏手に竹林が生い茂る田舎町のドライブイン。「カリフォルニア」という名のドライブインを経営するアキオ(阿部サダヲ)は、妹のマリエ(麻生久美子)、腹違いの弟ケイスケ(小松和重)と共に暮らしていた。ある日、芸能マネージャーの若松(谷原章介)が訪れ、マリエをスカウトし、彼女は若松とともに町を離れる。東京でアイドル歌手としてデビューするマリエだが、結婚を機に引退。それから14年後、夫の自殺を機にマリエが中学生の息子ユキヲ(田村たがめ)を連れて故郷に帰ってくる。若松の妻クリコ(猫背椿)や元高校教師の大辻(皆川猿時)ら、様々な人が絡み、複雑に時は流れていく……。

 「僕は初演も再演も見ていたんですけど、自分がかかわることはないだろうなと思っていたので、アキオ役をオファーされた時はびっくりしましたね。遠い存在の感じがして。比較的、大人の俳優が出ていてよそいきの感じで、まさか自分が出るなんて思ってもみなかったですね」と阿部は振り返る。

阿部サダヲ(左)と谷原章介=引地信彦 撮影拡大阿部サダヲ(左)と谷原章介=引地信彦 撮影

 若いころから大人計画の舞台を見ていたという谷原は、松尾作品に出演するのは今回が初めてだ。「本当にうれしいですね。実は阿部さんとは20年以上前に『ここで、キスして』というドラマで共演させていただいたんですけど、またいつかご一緒したいなと思っていて。それも叶ったので二重にうれしいです」と谷原。

 阿部も「谷原さんと女性を奪い合う役だったんですよ。よくやってたわ(笑)」と懐かしそうだ。谷原は、その時から阿部の演技の目の怖さや引き出しの多さに圧倒されていたと話す。「僕は芝居がうまくないのですが、自分が経験してきたことをもう一回、阿部さんにぶつけて一緒にできたらいいなと思っています」。阿部は「うれしいですね」と素直に喜んだ。

松尾さんてやさしいんだな

『ドライブイン カリフォルニア』公演から=田中亜紀 撮影拡大『ドライブイン カリフォルニア』公演から=田中亜紀 撮影

 今作の東京公演は5月下旬に開幕。物語には大切な人を失った喪失感や悲しみに、谷原曰く、笑いが砂糖菓子のようにまぶされている。「僕、最初に台本を読んだ時は本当に分からなくて。ほかの松尾さんの作品よりどぎつさが少なく、すごくソフトでやわらかいんですが、本線のお話とは別に、ギャグがいっぱいちりばめられていて、そっちに目がいくんですよね。気が付くと時間が飛んでいたり、心象風景に入っていたりして、場面転換もなく、一幕ものなのに忙しく物語が展開していく。それにごまかされていて、本質がなかなか見えてこなかったんです」と谷原。

 それは稽古に入り、本番で観客のリアクションを見て変わっていったという。「キャラクターたちは何か欠けていたり、ゆがんでいたり、社会に適応できなかったりという人たちばかりなんですけど、本当に悪い人は一人もいなくて。逃げ道を作っていいんだよと、皆がちゃんとつらい人を受け止めて、逃がしてあげるような話なんだと思いました。松尾さんてやさしいんだなと」としみじみ言う。

 やさしいよねと阿部もうなずく。「『ドライブイン』は特にそうですよね。松尾さんがこの作品を33歳で書いたのはすごいなと思います。僕は今、52歳ですけど、勢いもあって、古くなっていない感覚がありますね。東京公演では笑いの数が多くて、伝わっているんだなと思います。初演と比べて、大きく削っているところもあって、松尾さんには悪いけど無駄がなくなったというか(笑)。ボケとツッコミで笑いを取る大阪の笑いとはまた違うんですが。でも、大辻役の皆川君だけはすごく笑いに走ると思います。あの人は、1時間ぐらい出番がなくて、脇でずっと我慢していますから(笑)。イライラしていますもんね、楽屋で(笑)」と阿部。「皆川さんがクレイジーなことをいっぱい言うんですけど、お客さんから安定的に受けていますね」と谷原も笑う。

皆のタイミングがはまれば気持ちがいい

『ドライブイン カリフォルニア』公演から=田中亜紀 撮影拡大『ドライブイン カリフォルニア』公演から=田中亜紀 撮影

 それぞれが演じるキャラクターについてはどうだろう? 阿部演じるアキオは、自分の思いをうまく伝えられない不器用な男だ。「複雑な人間関係や話の構造が面白かったりするので、それを伝えていくのが難しいなと。でも演じていて面白いですけどね」と阿部。

 谷原が演じる若松は、妻の不倫に複雑な感情を抱きつつ、マリエに思いを寄せている。「すごく欠けているところがあって、ほかのメンバーみたいに何か面白いことを自分からやるキャラクターじゃないんですよね。笑いを取る気も毛頭ないんですけど、作品の中でもすごく異質な存在なので、ここにどういればいいのかすごく迷った時期はありました。積極的にかかわるのも違うし、笑いを取りに行くのも違う。地に足が着かない感じが稽古中はありましたね」と谷原は言う。

『ドライブイン カリフォルニア』公演から=田中亜紀 撮影拡大『ドライブイン カリフォルニア』公演から=田中亜紀 撮影

 確かに、若松は話し方からしぐさまで、かなり異質で変なキャラクターだ。普段の谷原のイケメンでスマートなイメージからはほど遠く、観客からは大きな笑いが起きていた。松尾ワールドや大人計画の役者の面々ともしっくりなじんでいるように見える。「そう言っていただけるのは本当にうれしいですね。僕は、大人計画の役者さんとはだいたい映像でご一緒していますが、皆川さんをのぞくと舞台は初めてなんです。コロナ禍で皆と飲みにいく機会もないし、面白いのかな?どうなのかな?と自分では不思議な感じでやっているんですよ」

 若松が洗面器を持参して、マリエの足をしつこく異様なほどに塩もみするシーンも噴き出してしまう。演じていて楽しそうに見えるのだがどうだろう? 「すごい大変なんですよ。水がこぼれるし、麻生さんが水に足を入れるタイミングとか、アキオが後ろで蹴って『なにゆえ』と言い、僕がどのタイミングで塩をかけるとか、微妙にいつもズレるのをまとめる感じで、楽しめる余裕は今のところないんです(笑)」と谷原。阿部も「段取りが多いんですよね」と同意する。「でもピタッとはまる時は気持ちがいい」と谷原は言うので、そんな皆のハーモニー⁉にも注目だ。

詩的なセリフは松尾さんが伝えたかったこと

 生きるのに苦悩するマリエを、いつも言葉に負け励ますことができないアキオが、雷に打たれたように自分の言葉を発していく場面では、阿部の演技力も相まって場の空気が一変する。「海から…波が打ち寄せてくる。(中略)時間の波が、現在という砂浜に立つ俺の足を、洗う。波は寄せては帰る。…世界に!そして宇宙全体に俺の足の情報が交ざる…おまえは全世界に影響を与えているんだ…無力じゃない!」などと、哲学的で詩のようなセリフがアキオの口からとうとうと流れ出すのだ。

 「初演や再演を見た時に、僕もすごく印象に残っていたシーンだったんです。あそこはアキオにとってはとても重要で、あの場面をちゃんと演じておかないと、後で大辻が言うセリフが伝わんなくなっちゃう。『現在という砂浜に立っている』という表現は詩的で面白いし、言っていて楽しいですね。しっかり言おうと思っています。本当は台本を読んだ時は、あのセリフで笑いが起きるのかなと思ったんですが、そうではなかった。やっていて気持ちがいいですね。僕は松尾さんの詩がいつも好きなんです。ほかの作品にも『宇宙は見える所までしかない』という歌詞が出てくるんですけど、詩的なところがすごくいいと思っています。そんなセリフはお客さんに大切にお伝えしたいですね」と阿部は言う。

 それを舞台の袖で見ている谷原はどう感じているのだろうか?「松尾さんは照れ屋な方なのかなと僕は勝手に思っていて。松尾さんは、あの詩というか、内省的なセリフの数々を本音で言いたいんだろうけど、すぐにそこをフワーッと隠すし、後でそれを覆すように、アキオ自身じゃなくて、大辻に言わせてしまう。照れてストレートにぶつけてこない松尾さんの奥ゆかしさを感じます」。

『ドライブイン カリフォルニア』公演から=田中亜紀 撮影拡大『ドライブイン カリフォルニア』公演から=田中亜紀 撮影

 松尾の死生観が表れる言葉でもある。「松尾さんはご自身のお母さんを亡くされて、『物体だった母親が記憶となって自分の周りを漂っているみたいな感じがする』と今回の公演のパンフレットでおっしゃっていました。それは松尾さん自身が戯曲ですごく伝えたかったことなのかなと思います。人が亡くなる時に、自分の過去を旅するということなのかなとも思います」と谷原。これを受け、阿部は「大辻の役は、初演は松尾さんがやっていたんだもんね。珍しいよね、松尾さんが自分の言いたいことを言うのは」と感慨深くつぶやいていた。

 ちなみに、谷原が20代後半の時に松尾に初めて会ってあいさつをすると、「すごーく冷たい目でチラッとだけ見て、目をそらされた(笑)。ずっと怖い方だと思っていました」と明かす。ただ、その後、実際に会うと全く怖くなかったらしい。これには阿部も「アハハハッ、松尾さんらしいですね」と言っていた。

この作品には希望がある

阿部サダヲ(左)と谷原章介=引地信彦 撮影拡大阿部サダヲ(左)と谷原章介=引地信彦 撮影

 笑いと悲しみと切なさが波のように押し寄せてくる中、思いもよらない美しいエンディングが訪れる。「松尾さんの作品はいつもどこかに生死が出てきますよね。それはどの時代でもはまる。昔は松尾さんの作品は、たいてい全員死んじゃうのが多かったんですが、この作品は希望があるという感じがする。そこが違うのかな。『ドライブイン』の初演のころに僕が出演していた松尾さんのほかの作品は、僕がバイクに乗って死んじゃうとか破滅的な感じでした。自分が改造されてバイクになって、宮藤(官九郎)さんを乗せて『行くぜ』みたいな(笑)。今回は新しい『ドライブイン』を届けられるように頑張ります」と阿部。

 谷原はこう続けた。「完全な健康体の人間はいないように、どんな人も欠けている部分があり、喪失感を抱えて生きている。お客さんも投影しやすい、シンパシーを感じられるキャラクターがいると思うんですよね。閉じた世界ではなく、普通にいる人たちの共感できる物語がちりばめられていると思います。芯にあるやさしくて切ない物語をお届けします。楽しみにしていてください」

 観劇後は、どこかを旅するように、少し時空が変わっているかもしれない。その不思議でジーンと温かい感覚がずっと残っている作品だ。ぜひ、劇場で!

◆公演情報◆
日本総合悲劇協会Vol.7
『ドライブイン カリフォルニア』
東京:5月27日(金)〜6月26日(日) 本多劇場
大阪:6月29日(水)〜7月10日(日) サンケイホールブリーゼ
公式ホームページ
[スタッフ]
作・演出:松尾スズキ
[出演]
阿部サダヲ、麻生久美子、皆川猿時、猫背椿、小松和重、村杉蝉之介、田村たがめ、
川上友里、河合優実、東野良平、谷原章介

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筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

 ブロードウェイでミュージカルを見たのをきっかけに演劇に開眼。国内外の舞台を中心に、音楽、映画などの記事を執筆している。ブロードウェイの観劇歴は25年以上にわたり、〝心の師〟であるアメリカの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて現地でも取材をしている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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