「ストレスが溜まらないやり方なので、現場では誰も怒鳴らない」
2022年06月24日
『万引き家族』(2018)でカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞してから4年。信頼する映画仲間の韓国人俳優を引き連れ、是枝裕和監督はカンヌの地に戻ってきた。彼にとって初の韓国映画となった“疑似家族”ロードムービーの『ベイビー・ブローカー』(公開中)は、主演のソン・ガンホに“韓国人初のカンヌの男優賞”という名誉ももたらした。前回に続いて、韓国人俳優や韓国での撮影について、さらに昨今、話題となっている映画業界の問題についても話を伺った。
『ベイビー・ブローカー』是枝裕和監督に聞く(上)──韓国社会の価値観
──『ベイビー・ブローカー』は赤ちゃんブローカーを追いかける刑事の二人組がともに女性です。これは現代的な設定にも感じましたが、この辺りは多少意識されたのでしょうか。(2009年の『空気人形』で起用した)ペ・ドゥナさんと、またお仕事をしたかったという気持ちもあったのかと思うのですが。
是枝 最初は(刑事は)男だったんです。ただ構成を考えていった時に、刑事を女性にするのは必然的だったんです。「赤ん坊を売る集団が擬似家族になっていく」話が表の物語で、赤ちゃんを売りに行く母親と追いかける刑事を女性とした時に、「母親にならなかった二人の女性が“母親”になっていく」のが裏の物語になるわけです。それで、脚本の第1稿を書いた時に、この二つの話、二つの旅が並行して進むということを手紙にして、キャストに渡しました。このドラマは(刑事役である)ペ・ドゥナの「捨てるなら産むなよ」という一言で始まりますが、作品の2時間の間にそうした価値観を一番揺さぶられるのは彼女なんですよね。
──ドラマの構成上、自然な選択だったわけですね。さて、今回は是枝監督の初めての韓国映画ということで、韓国の有名な俳優さんが揃っていますが、韓国は日本と演技のメソッドや考え方が違うので、これまでの演出法も影響を受けて変わったのでしょうか。
是枝 国というより、俳優はみんな方法論が違いますから。フランスで撮った『真実』(2019)だって(ジュリエット・)ビノシュと(カトリーヌ・)ドヌーヴでは全く違いました。今回もソン・ガンホとペ・ドゥナでは全く違いますから。日本でもアプローチの仕方はみんな違います。僕には明快な演出のアプローチが確固としてあるわけではないんです。
──演出方法を決めているわけではないのですね。
是枝 そうです。僕は相手次第です。子供でも相手に合わせてゆくやり方なので。ただソン・ガンホほど、一つ一つの自分のお芝居にこだわられる方は初めてでした。
──ガンホさんは実際に動いてみて、「やっぱりこうじゃない、またやらせてほしい」という感じだったのでしょうか。
是枝 自分から「もう一回やりたい」と言ってくるのは、ガンホさんが一番多かったです。撮影の翌朝も、一番早く現場に来て編集マンをつかまえては、ヘッドホンを付けて僕が繋いだ場面をいつも見ていました。
──ガンホさんがそこまで丁寧な方とは、ちょっと意外な感じもしました。後付けの解釈かもしれませんが、だからこそトップ俳優になれるのでしょうか。
是枝 そうだと思いますよ。
──撮影のエピソードで、どこにも語ってない話があればぜひお願いします。
是枝 (笑)。何だろう、何かあるかな。コロナのことがあるのでみんなで集まって飲みに行くことも、そんなにはなかったですから。ただ、たっぷり時間があって、蔚珍(ウルチン) などの温泉街に長く泊まっていたんですよ。結構休みが多くて。
──「休みが多い」というのは、映画の作り方が日本と違うということですか。
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