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【ヅカナビ】桜木みなとの魅力全開!

宙組公演『カルト・ワイン』

中本千晶 演劇ジャーナリスト


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 宝塚歌劇宙組によるミュージカル・プレイ『カルト・ワイン』が池袋・東京建物 Brillia HALLにて開幕した(7月2日~7日、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ)。 貧しい若者が偽造ワインの詐欺師として成り上がり、そして転落していく波瀾万丈の物語である。「ルディ・クルニアワン事件」という実際の高級ワイン詐欺事件に着想を得ているとのことだ。

 そう聞くと暗い話のようだが、なかなかに粋で小洒落た味わいがある。結末も痛快だ。何といっても主演の桜木みなとの魅力が最大限に引き出されている点で、意義ある作品だと思う。作・演出は栗田優香。昨年、和希そらが主演した『夢千鳥』に続き、主演者の持ち味を的確に見極める手腕が冴え渡った。

「ニセモノ」に踊らされる人たち、したたかに稼ぐ人たち

 物語は貧しい中米の国ホンジュラスで始まる。シエロ(桜木みなと)はマラス(ギャング)の一員となることしか生きる術がなかった。だが、親友フリオ(瑠風輝)の父を手にかけろとの命にどうしても従えなかったシエロは、フリオの一家と共にアメリカに渡って人生をやり直す決意をする。

 不法入国者として辛酸を舐め、職を転々とする中で、シエロは自分が天才的な味覚を持っていることに気付く。オークション市場で高値取引される「カルト・ワイン」の偽造に手を染めたシエロはカミロと名を変え、「ワイン界の貴公子」として一世を風靡していくことになる。

 桜木みなと演じるシエロ(カミロ)は振れ幅の大きい役柄だが、じつはその魅力は、紆余曲折あっても人としてブレないところにある。カミロになってからのスーツ姿ももちろん決まっているが、シエロ時代の姿にも不思議な愛嬌がある(プログラムの写真も必見だ)。この役は「桜木みなとの当たり役」のひとつとして語り伝えられていくと思うが、なぜ当たり役になり得たかについて、本稿の後半でも考察してみたいと思う。

 瑠風輝のフリオも貧困に苦しむ青年だが、場末の食堂で生きていても小顔でスタイリッシュな立ち姿に惹きつけられる。真面目にこつこつ努力を積み重ねて分相応の成功を手にしていく生き方が、カミロとは好対照だ。それでも揺るがぬ2人の絆が、バディ物としての本作の見どころである。

 春乃さくら演じるアマンダは、大輪の花というより清楚で控えめな佇まいが、これまでのタカラヅカ的ヒロインとは一味違って新鮮だ。これからもっと色んな役を見てみたいと思わせてくれる。

 ニセモノに踊らされる人たちと、ニセモノでしたたかに稼ぐ人たち。そんな人間の愚かさや狡さをシニカルに描いているところもこの作品の面白さだ。そこで宙組の芸達者な面々が大活躍する。

 シエロを悪の道に引きずり込むキーパーソン・チャポ役で凄みを見せる留依蒔世、久しぶりの男役に「おかえりなさい」と言いたくなる。チャポの手下・ミゲルを演じる真白悠希のおとぼけ感が絶妙だ。

 澄風なぎ演じる「屋台の店長」は、苦難の連続のシエロたちをホッと一息つかせてくれる天真爛漫さだ。フリオの父でありシエロにとっても父親のような存在であるディエゴ役の松風輝の芝居が味わい深い。彼がシエロに渡す十字架は重要なアイテムである。

 そして、一連の物語の中で狂言回し的な役割も果たすのが、風色日向のオークショニアだ。欲望渦巻く人間界とは一線を画したところで罪のない輝きを放ちつつ、狂乱の世界を涼しげに眺めているような狂言回しである。

◆公演情報◆
『カルト・ワイン』
2022年6月17日(金)~26日(日) 東京建物 Brillia HALL
2022年7月2日(土)~7日(木)  梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
公式ホームページ
[スタッフ]
作・演出:栗田 優香

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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