メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

職場や学校のジェンダーレスを流行で終わらせない。そのためにすべきことは

ジェンダーレスという考え自体を組織のルールにしよう

勝部元気 コラムニスト・社会起業家

 男女で分けている身だしなみに関するルールやマナーを見直す「ジェンダーレス化」の動きが、職場や学校で少しずつ始まっています。

 たとえば、女性にヒール・パンプスを強制するルールの見直しを求めた#KuTooムーブメントが盛り上がったことで、いくつかの企業が実際に撤回したことはその代表例です。

 就活シーンにおいても、女性のノーメイク禁止等、男女で異なるマナーを指南する「就活セクシズム」が蔓延していますが、批判の高まりを受けて、一部の就活大手やスーツ大手は見直しを始めています( 「マイナビ、青山ら大手が就活マナー刷新。「男女別」「化粧・パンプス強要」は「時代に合わない」」Business Insider Japan、2022年6月14日)。

 これらの動きは、俳優・アクティビストの石川優実氏や任意団体SSS(Smash Shukatsu Sexism)によるソーシャルアクション(署名活動・改善要望活動等)に対する賛同の声が多くなったことから始まりました。彼等の果たした役割は非常に大きかったと言えるでしょう。

厚生労働省への要望書について記者会見で説明する石川優実さん(中央)=2019年12月3日午後2時9分、東京都千代田区霞が関1丁目の厚生労働省20191203職場でのヒール・パンプス強制について厚生労働省に要望書を提出、記者会見で説明する石川優実さん(右)=2019年12月3日、厚生労働省

ジェンダーレスのニーズは急速に高まっている

 企業が自主的にルールを変更する動きも出てきました。たとえば、KDDIは2019年に服装規程を見直し、性別によって服装を指定しない内容へと変更しています(「KDDIが社員の服装規定を廃止。「男性だからスーツ」の固定観念を見直し」 Business Insider Japan、2019年11月1日)。

 制服の着用を義務付けている企業でも、男女統一のデザインに変更するケースもあります。たとえば、茨城県のローカル私鉄・関東鉄道は、2022年2月に、制服を男女統一のデザインに変更しました。

 学校でも、性自認に関係なく、スラックスかスカートを自由に選択できるようにして、制服着用ルールのジェンダーレス化の動きがあります。また、東京・墨田区のメーカーが男女同じデザインのスクール水着を開発・販売したところ、インターネット上で大きな話題になりました。

 このように性別を分けない服装に対するニーズが、近年顕在化していると言えるでしょう。

社会はまだ性差別ルールがスタンダード

 ジェンダーレス化の動き自体は歓迎すべきことではあるのですが、その一方で、懸念や課題も多数あります。

 まず、これらは事例として珍しいから記事になったり、SNSで話題になるのであって、社会のスタンダードはまだ男女で異なる身だしなみルールを課す性差別があふれていることを忘れてはなりません。

 私自身も、会社員時代にヘアピンをつけて作業をしていたところ、服務規程に「男性のヘアピン着用は禁止」と後から付け加えられて、ジェンダー・エクスプレッション(外見の性表現)を決まりきった型に矯正しようとする圧力に、自尊心やセルフアイデンティティを傷つけられたことがありました。同様に、今この瞬間にも、性差別的ルールで苦しむ人は多々いることでしょう。

 ジェンダーレス化へ転換した学校や企業の担当者が、「時代に合わせていかなければならない」などとコメントすることがありますが、今も昔も苦しむ人の痛みは変わりません。ですから、「時代が変わったから」といった曖昧な理由ではなく、「セクシズム(性差別主義的)なルールは人権や個人の尊厳の侵害になるから見直した」と正確に言って欲しいものです。

就活生の身だしなみ基準はもう要らない

Spica_picSpica_pi/Shutterstock.com

 就活に関しては、ジェンダーに関係なく、身だしなみに関する一律の基準を就活生に示すこと自体、必要性が薄れているように思います。

 というのも、以前に比べて、従業員に課す身だしなみルールは職場・業界ごとに様々で、多様化が進んでいるからです。たとえば、「スーツでなければダメ」「ビジネスカジュアルならOK」「清潔感さえ保てば基本的に自由」のように、幅が広がっています。とりわけ、コロナ禍によるテレワークの普及を経て、その傾向は強くなったはずです。

 応募先企業の社員の身だしなみが多様であるのに、就活生には統一的な基準に従わせるのはおかしな話です。就活会社などは「身だしなみは応募先の服務規程を確認したり、それぞれの業界の慣行に合わせましょう」とアドバイスするだけで十分ではないでしょうか。

 ただし、就活会社が変わるだけでは、学生が実際にどう対応するべきか戸惑うと思います。

・・・ログインして読む
(残り:約2257文字/本文:約4115文字)