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【ヅカナビ】『めぐり会いは再び next generation-真夜中の依頼人-』

シリーズ1、2とのつながりを知ると、もっと楽しい

中本千晶 演劇ジャーナリスト


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 目下、東京宝塚劇場にて上演中の星組公演『めぐり会いは再び next generation-真夜中の依頼人-』が、まるでオモチャ箱をひっくり返したような楽しさだ。

 この作品は2011年に上演された『めぐり会いは再び』(以下シリーズ1)、翌年の『めぐり会いは再び 2nd ~Star Bride~』(以下シリーズ2)に続く、シリーズ第3作目となっている。とりわけシリーズ1、2を知っている人はクスリと笑えるところがたくさん、そして「こう来たか!」と唸らされる結末。愛すべき世界が過去からつながり、未来へと続いていく。その拡がりに希望を感じさせる作品だ。

 「まるで2次元の世界から飛び出して来たみたい」と思ってしまう。そして「この作品、原作はないのだった」と我に返る。そんな不思議なところがある作品でもある。絵本のようにカラフルで可愛らしい世界観が、そう錯覚させるのだろうか。さらに東京公演では、愛すべきキャラクターたちがそれぞれ進化を遂げていくさまも見逃せない。

 どの場面も舞台上のあちこちで色んなことが起こっている。盛りだくさんな舞台なだけに、いったいどこを観たらいいのかわからなくなってしまうかもしれない。そこで今回は、主人公のルーチェよろしく「話を整理してみましょう!」。1度の観劇で見どころを漏らさず楽しむための交通整理をしてみたいと思う。

シリーズ3は、ルーチェとアンジェリークの成長物語

 話はシリーズ1にさかのぼる。このときの主人公は、ヴェスピエール公爵の息子ドラント(柚希礼音)とオルゴン伯爵の娘シルヴィア(夢咲ねね)だった。このシルヴィアの末の弟、つまりオルゴン家の末っ子が、今回の主人公ルーチェである。

 ルーチェはシリーズ2で初登場するが、このときはまだ15歳の生意気ざかりの少年だった。シリーズ2で名前だけが明かされていたルーチェの恋人「アンジェリーク」もリアルに登場する。

 シリーズ3は、2人の10年後の物語である。ルーチェ(礼真琴)は幼い頃、最期を迎える母の手を取れなかったという経験から、自分は弱い人間だと思い込んでいる。いっぽうのアンジェリーク(舞空瞳)はやたら気が強いばかりで、なかなか自分の気持ちに素直になれない。

 実はアンジェリークには重大な秘密があった。何と彼女はコーラス王家の一人娘なのだが、その出自を隠して育てられていたのだ。ところが、突如として王女の花婿選びが開催されることとなった。2人の恋の行末を心配する周囲のお節介により、花婿選びにルーチェが送り込まれることになる。

 コンプレックスのかたまりのような御曹司を「三拍子そろった実力派」などと言われがちな礼真琴が演じるところに、ときめきがある。舞空瞳演じるアンジェリークはポップでキッチュな衣装を難なく着こなし、まさに絵本から飛び出したプリンセスである。

 考えてみると「普通の女の子として育てられたけれど実はプリンセスだった」だの、「伯爵家の末息子がプリンセスの心を射止める」といった話は、昔読んだおとぎ話の中によく出てきた気がする。子どもだった私は、自分をプリンセスに勝手に重ねてみて、胸をときめかせたものだ。

 この作品では、そこに等身大の成長物語が重ねられている。だから、大人でもおとぎ話の世界に入り込みやすい。そこがこの作品の魅力なのかもしれない。

宰相オンブルの野望と、同級生たちのモラトリアム

 主軸であるルーチェとアンジェリークの成長物語に、さらに二つのサブストーリーが並行して走る。その一つが、宰相オンブル(綺城ひか理)の密かな野望にまつわる物語だ。

 かつて勇猛な軍人として国に尽くしたにもかかわらず報われなかったことを恨むオンブルは、王女の花婿選びで、ある企みを画策する。息子のロナン・ヴェリタス・オンブル(極美慎)は花婿の最有力候補といわれ、自信満々な様子でさっそうと登場する。だが、ロナンは大司教の娘ジュディス(小桜ほのか)と密かに愛し合っていた。

 果たしてルーチェはロナンに勝てるのか? そして、ロナンとジュディスの恋の行く末は? そして、宰相オンブルは真の悪人なのか? それとも?……そんなことも考えさせる人間味あふれるお芝居が、物語の後半にかけて急展開する。

 そして二つめのサブストーリーが、ルーチェの大学時代の同級生の「脱モラトリアム」物語である。レグルス(瀬央ゆりあ)の探偵事務所は閑古鳥が鳴いている。そこに居候する女優の卵ティア(有沙瞳)は強すぎる個性ゆえにオーディションに落ちまくり、駆け出し劇作家のセシル・ピーター・ウェルズ(天華えま)は締切りがちっとも守れない。アニス(水乃ゆり)は天才的な発明少女だが、親には全然理解してもらえない。

 そこにルーチェを加えた5人は、いずれもユニークな個性を持ちながら、世の中にうまく適応できずにいる。今の世の中にたくさんいそうな若者たちだ。だが、そんな彼らが、ルーチェらの危機を救うために一役買うことで、一皮むけていく。

 レグルス(瀬央)とティア(有沙)の2人が、地に足つけてしたたかに生きていくカップルとして、華やかな主役カップルとのコントラストを醸し出す。最後に「成功報酬」を手にしたレグルスが、新しい事務所に引っ越すのではなくて、今の事務所の壁の穴を塞ぐ選択をするところがいい。「俺はずっとここにいるよ」というセリフが彼の人柄を現しているような気がする。

 以上が、シリーズ3の基本構成である。これだけでもそれなりに楽しめるが、じつは随所に仕込まれているシリーズ1、2とのつながりを知ると、この作品はもっと楽しい。

ここから先では、それを見ていくことにしよう。

◆公演情報◆
『めぐり会いは再び next generation-真夜中の依頼人』
『Gran Cantante!!』
2022年4月23日(土)~5月30日(月) 宝塚大劇場 ※終了
2022年6月18日(土)~7月24日(日) 東京宝塚劇場
公式ホームページ
[スタッフ]
『めぐり会いは再び next generation-真夜中の依頼人』
作・演出:小柳奈穂子
『Gran Cantante!!』
作・演出:藤井大介

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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