心身の負担、中絶や避妊の困難、遅れた教育を「わがこと」と考える社会に
2022年07月11日
いま日本で初めて、「人工妊娠中絶できる飲み薬」が承認される可能性が高まっている。
すでに世界80カ国以上で使用され、WHO(世界保健機関)が安全な中絶の手法として推奨しているこの薬の承認をめぐって、今年5月、厚生労働省が「薬の服用には配偶者の同意が必要」という見解を示したことで、ネット上に怒りの声が噴出した。
「なぜ女性の体のことを女性の意思だけで決められないのか?」
「性暴力やDVだった場合は?」
「明治の家父長制をいつまで引きずるの?」
などの批判や疑問が山のように投げかけられた。
一方で、
「子供は夫婦の問題。性暴力などの場合を除けば、配偶者合意は当然では?」
「赤ちゃんは女性一人のものか?」
などの声も一定数は見られた。
これを目にして、私の頭に真っ先に浮かんだのは、私が脚本チームのメンバーとして関わったドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』(現在Netflixで配信中)である。
『ヒヤマケンタロウの妊娠』は、斎藤工さん演じる順風満帆なエリートサラリーマン・桧山健太郎が、ある日思いがけず妊娠してしまい、奮闘しながら成長していく姿を描いた社会派コメディである。
「男女ともに妊娠する世界」という唯一のフィクション設定を除けば、描かれているのはリアルな現代日本社会の実像だ。
ドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』
原作:坂井恵理『ヒヤマケンタロウの妊娠』(講談社「BE LOVE KC」)
監督:箱田優子、菊地健雄
脚本:山田能龍、岨手由貴子、天野千尋
出演: 斎藤工、上野樹里ほか
製作:Netflix
企画・制作:テレビ東京
制作協力:AOI Pro.
2022年、Netflixで全世界同時独占配信中
ドラマの中で、桧山が口にする印象的なセリフがある。
妊娠は、男性にとっても女性にとっても人生の分岐点になる大きな出来事だが、現実にその影響の大半を直接受けるのは妊娠した当人だ。
妊娠を望んでいても望んでいなくても、産むにしろ産まないにしろ、妊娠した人には身体的、精神的に大きな負担が生じる。日常生活が制限され、仕事や学業に支障が出て、経済的、社会的に問題を抱えることもある。時には起き上がれないほど苦しんだり、体に消えないダメージを負ったり、健康や命が脅かされることだってある。
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