男が妊娠したら社会は変わる? 性と生殖に関する健康と権利
心身の負担、中絶や避妊の困難、遅れた教育を「わがこと」と考える社会に
天野千尋 映画監督
人工中絶薬に「同意」は必要なのか?
いま日本で初めて、「人工妊娠中絶できる飲み薬」が承認される可能性が高まっている。
すでに世界80カ国以上で使用され、WHO(世界保健機関)が安全な中絶の手法として推奨しているこの薬の承認をめぐって、今年5月、厚生労働省が「薬の服用には配偶者の同意が必要」という見解を示したことで、ネット上に怒りの声が噴出した。
「なぜ女性の体のことを女性の意思だけで決められないのか?」
「性暴力やDVだった場合は?」
「明治の家父長制をいつまで引きずるの?」
などの批判や疑問が山のように投げかけられた。
一方で、
「子供は夫婦の問題。性暴力などの場合を除けば、配偶者合意は当然では?」
「赤ちゃんは女性一人のものか?」
などの声も一定数は見られた。
これを目にして、私の頭に真っ先に浮かんだのは、私が脚本チームのメンバーとして関わったドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』(現在Netflixで配信中)である。
『ヒヤマケンタロウの妊娠』は、斎藤工さん演じる順風満帆なエリートサラリーマン・桧山健太郎が、ある日思いがけず妊娠してしまい、奮闘しながら成長していく姿を描いた社会派コメディである。
「男女ともに妊娠する世界」という唯一のフィクション設定を除けば、描かれているのはリアルな現代日本社会の実像だ。

ドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』=©坂井恵里・講談社/テレビ東京
ドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』
原作:坂井恵理『ヒヤマケンタロウの妊娠』(講談社「BE LOVE KC」)
監督:箱田優子、菊地健雄
脚本:山田能龍、岨手由貴子、天野千尋
出演: 斎藤工、上野樹里ほか
製作:Netflix
企画・制作:テレビ東京
制作協力:AOI Pro.
2022年、Netflixで全世界同時独占配信中