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世界の頂に挑む男たちを描く『神々の山嶺』(夢枕獏・谷口ジロー原作)

元アシスタント上杉忠弘氏に聞く──映画と漫画、それぞれの魅力

叶精二 映像研究家、亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京工学院講師

フラットなデザインと圧縮によるまとまり

© Le Sommet des Dieux - 2021/Julianne Films/Folivari/Mélusine Productions/France 3 Cinéma /Aura Cinéma拡大© Le Sommet des Dieux - 2021/Julianne Films/Folivari/Mélusine Productions/France 3 Cinéma /Aura Cinéma

──本作では瞳孔の周りに白眼を同心円のように塗る、眼を大きく描き過ぎないデザインとなっていて、静かな視線の芝居を重視しているように思えました。

上杉 その描き方は、線の抜き方などがバンド・デシネでみかけるスタイルに近くておもしろいと私も思いました。昔の海外のアニメーションですとリアルな人物は直立不動で、喜怒哀楽のきまった表情の演出が多かったようですが、この作品の目線の演出はCGのアニメーションにリアルさを出す発見だったのかなと思います。最近のアメリカの作品などはちょっとやりすぎな感じもしていますが、それが2Dでも応用されるようになってきたのではないかと。

──身体よりも目線の芝居を重視するのは、日本の「アニメ」の伝統的傾向でした。背景にも標準レンズ風の落ち着いたレイアウトが多用されていました。

上杉 エフェクトをかけて空気感を出すのは、今では簡単だと思いますけど、そこは最低限にして、1枚の絵のインパクトをみせる箇所が多いように思いました。

──山々の白とグレーの織りなす壮大な風景は平面的で、描き込み過ぎないことによって絵としての美しさが強調されているという印象を持ちました。

上杉 フラットな面の使い方が上手で、私はとても好みでした。谷口さんの場合はこれでもかと描き込んで密度を高めていくことが多いんですけど、何も描かれていないことで想像させる「間」を感じさせる作品でした。登山シーンなども無言で動きだけでみせていく演出がよかったです。

──登山シーンの臨場感とサスペンスはたっぷりと見せて、逆に日常のシーンはテンポ良くカットを刻んでいます。羽生と深町の出発を同時並行の登山準備のカットバックで短時間で見せてしまう。映画的時空間の演出が上手でした。

上杉 上映時間が90分ほどですが、時間的な省略をうまくつかってコンパクトに纏まっているところなど、戦前のハリウッド映画を連想しました。

© Le Sommet des Dieux - 2021/Julianne Films/Folivari/Mélusine Productions/France 3 Cinéma /Aura Cinéma拡大© Le Sommet des Dieux - 2021/Julianne Films/Folivari/Mélusine Productions/France 3 Cinéma /Aura Cinéma

──新橋駅前や歌舞伎町などの背景もしっかり描かれている一方、看板の「クラッカー」「センター」などのカタカナ縦棒が横(―)になっているなど妙な間違いもあり、そうした混在に不思議な感じがしました。

上杉 きちんと取材されているんだと思いますが、日本に暮らしているわけではないので漏れはでてきますよね(笑)。郵便ポストがやたら小さいとか。でも背景の細かいところが面白かったです。高畑(勲)さんと宮崎(駿)さんらしき人物が居酒屋にいたり、

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筆者

叶精二

叶精二(かのう・せいじ) 映像研究家、亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京工学院講師

映像研究家。亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京工学院講師。高畑勲・宮崎駿作品研究所代表。著書に『宮崎駿全書』(フィルムアート社)、「『アナと雪の女王』の光と影」(七つ森書館)、『日本のアニメーションを築いた人々 新版』(復刊ドットコム)、編著に『ルパン三世 PART1 絵コンテ集 「TV 1st series」秘蔵資料コレクション』(双葉社)、共著に『王と鳥 スタジオジブリの原点』(大月書店)、『マンガで探検! アニメーションのひみつ』(全3巻、大月書店)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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