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舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』:壮大な物語を「愛」が動かす

「魔法の国」の台本から【下】

小田島恒志・小田島則子 翻訳家

たくさんの言葉遊び、スペアをスペアする……?

 ここで紹介した「詩」以外にも、『ハリー・ポッターと呪いの子』にはシェイクスピア張りの言葉遊びがふんだんに出てくる。

 一つ挙げると、物語の発端というべき、エイモス・ディゴリーのセリフで言及される「スペア」(spare)という言葉だ。エイモスはハリーの代わりにヴォルデモーに殺された息子セドリックのことで、ハリーに文句を言う。

Voldemort wanted you! Not my son! You told me yourself, the words he said were ‘kill the spare’. The spare. My son, my beautiful son, was a spare.

ヴォルデモーが求めたのはあんただ! 息子じゃない! あんたから聞いたんじゃないか、ヴォルデモーが何て言ったか、「スペアを殺せ」。スペア。私の大事な息子を代用品呼ばわりだ。

 「スペア」という言葉は「スペアタイヤ」のように、「予備の、代わりの」という意味である。それで殺されたのは如何にも不当だ、というわけだ。

 言葉遊びは、これを巡って、じゃあタイムターナーで時をさかのぼってセドリックを救おう、という話の中で出てくる。命を救う、という動詞も「spare」なので、「スペアの命を救う」はspare the spare となる。これは訳せない。

拡大『ハリー・ポッターと呪いの子』の劇場前に設置されたタイムターナーのオブジェ。時間をさかのぼることができる装置として劇中で重要な役割を果たす=東京都港区

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子 』は、「ハリー・ポッター」シリーズの19年後の新しい物語。37歳になったハリーは魔法省の長官として忙しく働いている。ハリーの次男アルバスは「ホグワーツ魔法学校」に入学し、ハリーをめぐる過去の出来事と深くかかわることになる。

   オリジナルストーリー:J・K・ローリング
オリジナルストーリー・脚本:ジャック・ソーン
オリジナルストーリー・演出:ジョン・ティファニー
           翻訳:小田島恒志・小田島則子
  主催:TBS・ホリプロ・The Ambassador Theatre Group
特別協賛:Sky株式会社

ハリー役は藤原竜也、石丸幹二、向井理のトリプルキャスト。東京・TBS赤坂ACTシアターで2022年6月16日にプレビューが始まり、7月8日に開幕した。ロングラン公演で、チケットは現在、2023年5月分まで発売されている。


筆者

小田島恒志・小田島則子

小田島恒志・小田島則子(おだしまこうし・おだしまのりこ) 翻訳家

【小田島恒志】早稲田大学教授。早稲田大学大学院博士課程、ロンドン大学大学院修士課程修了。1996年度湯浅芳子賞受賞。主な翻訳戯曲:『ライフ・イン・ザ・シアター』『ディファイルド』『海をゆく者』『オレアナ』『アルカディア』『コペンハーゲン』『ピグマリオン』『チルドレン』『ザ・ドクター』『INK』『JERSEY BOYS』『PIPPIN』など。 【小田島則子】大学講師。早稲田大学大学院博士課程、ロンドン大学大学院修士課程修了。主な翻訳戯曲に『チャイメリカ』『ナイン』『アルビオン』など。 【共訳戯曲】『コラボレーション』『Be My Baby ~いとしのベイビー』『That Face』『ブロードウェイから45秒』『ディスグレイスト』『ザ・ダーク』『SWEAT』『グロリア』『プレッシャー』『ミセス・クライン』『OSLO』『サンシャインボーイズ』など。【共訳書】『ビーン』『エミリーへの手紙』『天国の五人』『ビューティフル・ボーイ』『オックスフォード大学・ケンブリッジ大学 世界一考えさせられる入試問題』『毎日使える必ず役立つ心理学』『クマのプーさん創作スケッチ』など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです